貴方に愛を捧げましょう


「由羅様……」


こうしている事が、本当に心地良くて温かくて。

肩口に顔を埋める彼の滑らかな肌を感じて──ふと思い出した。

今の自分の状態を。


「葉玖……離れて」


筋肉質な胸に手を当て、力を込める。

……駄目だ。

上手く力が入らないし、やっぱり離れてくれない。


「葉玖……お願いだから、離れて」

「──…っ、何故……!」


そこで漸く、少しだけ身体を離してくれた彼はあたしの手を取ると、切なげに顔を歪ませ見つめてくる。

後ろにいる狐姿の葉玖の、大きく逞しい体躯に気だるい身を預けながら、今更だとは思いつつも理由を告げた。


「しばらく……お風呂に入ってないから」


そう、いつからだっけ……。

風邪をこじらせて、二度目に学校を休んでからだから……三、四日くらい…?


「そんな、そのような事…──」

「あなたは良くても、あたしは嫌なの……」


最後まで訊かなくても分かりきった彼の答えを待たずに、ぼんやりする重い頭を傾けながら反論する。

それでも尚、寝ている間にくしゃくしゃになったあたしの髪に手を伸ばし、躊躇無く触れて直そうとする彼を見上げて、呆れ顔をしてみせた。

それでも触れるのをやめない葉玖は、その手を頬に滑らせて言った。


「貴女を想い焦がれ……漸くこうして御側に居られる事が叶った今、貴女に触れずにはいられない」


堪らないといった表情で、頬から顎の先まで指を滑らせると、あたしの唇を一撫でして囁く。


「貴女に触れていたい……片時も離さず、永久に」


そんな事を、儚く今にも消え入りそうな──それでいて、艶めいた声で言うものだから。

どこか確信めいたものを感じつつも、仕方なくこちらから妥協案を提示した。


「とにかく、お風呂に入るまでは…──」

「──では、御用意致しましょう」


そう言うが早いか、後ろにいる葉玖はするりとベッドを抜けると、暖かな風を巻き上げてあっという間に部屋を出て行ってしまう。

もたれさせていた身体は、唐突に支えを無くして傾いだけど、目の前の葉玖がさっと腕を背中にまわして支えてくれた。

おかげで温もりは失わずに済んだけど……。


「──…っ、もう……」


そこまでしようとするなんて……少し、可笑しい。


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