貴方に愛を捧げましょう


頭痛と吐き気でつらかった事など嘘のように、不思議なほど落ち着いた体調を窺いながら。

白くトロリとした甘酒の入った盃を傾け、乾いた唇を濡らす。

鼻腔を擽る甘美な香りに刺激され、自分で思うより遥かに焦って、口に含んでしまったのかもしれない。


「──…っ、ぅ、こほっ……」


咥内を満たした甘酒が、乾いた喉には直ぐに馴染まず、少し噎せてしまった。

それは唇から零れて、トロリと顎を伝っていく。

そんな自身の様がみっともなく思えて、すかさずそれを袖口で拭おうとしたけれど。


「由羅様……」


こちらを見上げて跪く目の前の葉玖に、やけに熱っぽい眼差しを向けられながら。

すっと伸びてきたのは、傍に寄り添っていた葉玖の手。

その手がそっと頬に添えられ、美しい顔が近付き…──


「っ、……ん」


ちゅ、と微かな水音が響き、零れた甘酒を掬うように顎先に口付けられて。


「落ち着いて……ゆっくり、お口に含まれて下さい」


至近距離で、蜂蜜色の瞳に覗き込まれて。

心を絡め取るようなその眼差しに、背筋がぞくりと甘く震えた。


「さぁ……由羅様」


盃を持つ手に彼の手がそっと添えられ、口元へと誘導される。

熱い眼差しを受けながら、再びゆっくりと盃を傾けた。


「──…ん」


ふわりと甘く芳しい甘酒が、口いっぱいに優しく広がる。

それは喉をトロリと通り、甘酒の流れた所が渇いた粘膜を潤していく。

こくり、こくり、喉を小さく鳴らして盃を空にし──思わず、言葉が突いて出た。


「すごく、美味しい…!」

「それは良かった……。まだ有ります、注ぎましょう」


初めての甘酒が余りにも美味しいもので、素直に零した感動に、葉玖はほっとした様子で微笑んだ。

二度目に注がれたものも全て飲み干し、三度注がれるのを眺めながら──ふと口を開いた。


「ずっと聞きたかったんだけど……その髪、どうしたの」


彼が戻ってから、気になっていた事が沢山ある。

今の今までそんな事に構ってる余裕が無かったんだけど、身体的にも精神的にも大分落ち着いてきたからこそ、訊いてみたくなって。

取り敢えず身近なところから──と考え、彼の髪について触れてみたら。


「お気に障るようでしたら……」


案の定、要らない遠慮が返ってきて眉を潜めた。

……どうしてそうなるの。


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