貴方に愛を捧げましょう
「気に障る事はないし、そういう事じゃなくて」
控え目なのか強引なのか……どうもよく解らない彼を見やりながら、再度説明をと口を開く。
「あなたの髪……そんなに長くなかったはずだけど」
はらり、金糸が困惑した表情にかかる。
甘酒を少しずつ口にしながら、そもそも…──と思い返した。
だって、以前の彼の外見とはがらりと変わっていて。
今身に纏うのは、あの儚げな白の和装姿ではなく。
群青色の着流しに、黒の長羽織り。
その羽織りには、はっとするほど雅な彼岸花が一輪、施されていて。
その背に流れる、見事なまでに美しい黄金の髪は……腰まで届く長さになっていた。
「大体、あたしが気に障るって言ったら、どうするつもりだったの」
「仰せのままに……」
「──…はぁ」
もう、溜め息をつくしかない。
こういう所は、内面は、全く変わっていなくて。
「あのね……いい? ちゃんと自分の意思を持って。あたしはもう、あなたの“主”じゃないんだから」
傍に居る葉玖をぐっと見上げ、思いを込めて強く告げた。
「あなたの髪は好きよ。綺麗で、思わず触りたくなるくらい」
そこで肩に掛かる髪を一筋、指に絡めてその感触を確かめた。
これは本当に髪なのかと疑いたくなるくらい、どこまでも艶やかで、魅せられてしまう。
「だから、何でもかんでもお伺いをたてようとしないで。ただ、どうしてそうなったのか……と思っただけ」
幻想的な髪に目を奪われたままのあたしの手を取った葉玖が、こちらを見つめながら…──やっと理由を話した。
「今が元の長さだったのですが……以前仕えていた主が、この長さを煩わしいと言われたので、以前の様に短くしていただけなのです」
「そう、だから……」
だからさっき、気に障るなら──って言ったんだ。
どこが煩わしいのか、あたしには解らない。
「……とにかく。それが本来のあなたなら、そのままでいて」
指に絡めたままの髪をするりと解き、ふわりと落ちるそれを見届ける。
そこであたしの手にキスを落とした葉玖は、不意に視線を逸らした。
──…そして。
「お湯の御用意が出来ました」
その声に、彼の視線を追い掛けると。
九尾を揺らしながら、廊下で静かに座る黄金の狐がいた。