貴方に愛を捧げましょう


その神秘的な姿に誘われるようにベッドを降り──立ち上がると。


「っ、あ……!」


足に上手く力が入っていなかったようで、ぐらり、と身体が傾いだ。


「──由羅様」


そこですかさず葉玖の腕が伸びてきて。

優雅な動きで、あたしを掬い上げ横抱きにすると、そのまま廊下へ向かって行った。

ほんと……情けない。


「……ありがと」


自身の体の脆さを疎ましく思いながら、力なく呟いた。





いつの間にか、側を歩いていた狐は消えていて。

気遣わしげにあたしを脱衣場で降ろした彼は、切なさを含ませた眼差しでこちらを見つめてくる。

そんな彼を横目に、服を脱いでいく。

彼がここを離れる前、何度も着替えるところを見られているから、今更何とも思わない。

けれど、あんな……置いてかれるのを淋しがる犬みたいな目で、こっち見なくても……。

お風呂入るだけなのに。


「……あなたも入る?」


一応、冗談めかして言ったつもりだったんだけど。

きっと、表情は上手く作れていなかったんだ。

多分……そう。


「貴女が御許し下さるのなら……」


大真面目にそんな答えが返ってきて、驚いてしまう。

瞠目し固まるあたしを余所に、そっと引き寄せられ、額にキスを落とされ──甘く囁かれて。


「貴女を何時までも、この腕に抱いていたいのです」

「……っ」


鼓膜が、じんと痺れる。

熱い吐息と眼差しに絡め取られ、息が詰まる。

──…捕らわれる。


彼の胸に手を当て、あたしを囲う身体をそっと押し返した。

あたしを離さんとする彼から目を逸らし、意識して息を整える。

あなたは……本当に、狡い。


「こんな貧相な身体が目に入っても構わないなら……まぁ、あたしは良いんだけど」

「貴女はとても魅力的です」

「あなただけよ、そんなふうに思うのは」


彼の言葉が嘘偽り無く聴こえてしまうあたしの頭は……かなりの重症だ。

自身に呆れてかぶりを振りつつ、彼に背を向け残りの服を脱いでいき──ふと気付いた。

寝込んでいた数日間で、随分痩せてしまった事に。


普段から外見には無頓着な方だけど……今は、見るからに酷い。

軽いものではあるものの、予期せぬ衝撃で思わず黙り込んでしまった──次の瞬間。

不意に優しく抱きしめられ……どうしようもなく、泣きそうになった。


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