貴方に愛を捧げましょう


長い金糸が、肌をするりと擽る。

彼の唇が項に触れ、そこから生まれる確かな熱に身体が甘く震えた。


「どのように変わられたとしても、それが貴女ならば、私の想いは永久に変わらない」


あなたの声は、不思議な力を持ってあたしを包み込む。

温かく、優しく、穏やかに。


「──…由羅様、貴女は芯の強い素晴らしい御方。そんな貴女に、私は狂おしいまでに惹かれているのです……」


完全に、心の内を読まれたと思った。

それを不快には感じず、ただ、無性に込み上げてくる涙を堪える事に精一杯で……。

自身の弱さや脆さを恥ずかしく思い、唇を強く噛んだ。


「由羅様、貴女が愛しくて堪らない……」


こんなあたしを無条件で想い求めてくれるあなたを、拒絶する事など出来るはずもなく。

俯くあたしの曝された項に彼の唇が掠め、同時に、肩に掛けられた肌触りの良い何か。

見るとそれは、彼が着ていた美しい黒の羽織り。

黒に艶やかに映えるあの彼岸花は、今の状態では見えないけれど、この目に確かに焼き付いている。

羽織りの端を手繰り、無意識に身体を隠すように胸元に寄せ、振り返る。

熱を帯びた瞳と目が合い、さっきまで噛んでいた唇を彼の指先が咎めるように、そっと滑る。

その手を強く握り、目を伏せた。


「あたしを美化しないで。あなただって解ってるくせに……」


そう言うと、なぜか返事がなくて。

僅かに視線を向けると、彼は優しく微笑んでいた。

それはまるで、あたしの反論まで全て受け入れているかのようで。

それでもあたしは、言わずにはいられなかった。


「あたしは…っ、他人より自尊心を強く持って、自分の弱さを隠しているだけなの。それを解ってる上でやめられない自分に、嫌気がさす……」


そこで再び目を伏せ、彼の手を離そうとしたけれど、その手をそっと握り込まれ、柔らかな美声が鼓膜を震わす。


「他者に弱さを見せない事も、それは一つの強さでは…?」

「違う……。そんなの、ただの天の邪鬼よ」


そう、解ってるの。でも、今までこうして自身を保ってきた。

だから…──


「──…由羅様、やはり貴女は強い意志をお持ちです。自身を理解するのは、大変難しい事なのですから……」


そうしてやっぱり、見棄てようとはしないんだ。

救いようもない、こんなあたしを……。


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