貴方に愛を捧げましょう
「他の誰でもない、あなたがくれる、あなたのこのぬくもりだけは……手離したくない」
繋がれたお互いの手に視線を落とし、囁くように言葉を、思いを紡いでいく。
「こんなこと言わなくたって、あなたは無条件で傍に居てくれようとするんでしょうけど……あなたと同じだけの想いを返す事は、どれだけ経ってもあたしには出来ないと思うの」
そう……言わなくても解ってくれてるだろう。
けれど、そこに甘えたくない気持ちがあるから、口にせずにはいられなくて。
そこで急に力の込められた手に、視線を上げる。
彼の蕩けるような瞳に、微かに歓喜の色が窺えた。
さっきのあたしの言葉の意味を、深く理解したからこそ。
「──っ、由羅様……それは、それはっ…──」
無意識だろうか……あたしの手を強く引き寄せ、真意を確かめようとしている。
以前に彼が言ったあの言葉が、脳裏に蘇ってくる。
『──私は、貴女からの好意は求めません』
どんな想いで口にしたのか、その気持ちはあたしには計り知れないものだけど。
少しでも、ほんの少しでも、あなたの想いが報われるなら……それも良いと考える自分が、ここにいて。
「今まで一度も、誰に対しても、傍にいてほしいなんて……思ったことなかった。だからこそ、誰かを特別に想う気持ちなんて……解らないから」
「いいえ…っ、いいえっ……貴女のそのお言葉を頂けただけで、もう…──!」
その瞬間、熱気の籠った浴室にぶわりと広がる、甘く芳しい豊潤な薫り。
目が眩み、頭がくらくらするほど鮮烈なそれが一体何なのか──直感的に判った。
彼の狂おしいまでの想いが感じられる、感情の昂りによって放たれたものだと。
それはまるで彼自身のようで、薫りに包まれる安心感に身を委ねる。
強く引かれた手に力を込め、繋がれた彼の手をぎゅっと握り締めた。
この手を離したくないという気持ちは、確かにある。
安らぎも、ここに。
「それでも構わないなら……傍に、いて」
これが、今のあたしの──…想い。