貴方に愛を捧げましょう


「葉玖……」


再び流れる、幾筋もの涙。

それを拭ってあげたいと思う反面、ずっと見ていたいという思いもあって。

涙の一滴を、繋いだままの手に落ちていくのを見届けた。

そこで不意に目についた、彼のなめらかな首筋。

無意識に身体を傾け、彼の肩口に額を当ててそっと顔を首筋に埋めた。

はっと息を呑み、身体をこわばらせる彼を感じたけれど、気付かないふりをする。


「いい匂い……。樹と、花と……太陽の香りね」


深く深く息を吸い、彼の薫りを喉の奥で堪能する。

しっとりとした彼の肌が頬に触れ、その心地良さに、更に彼の方へぐっと身体を寄せた。

その瞬間、彼の手があたしの肩を押しやる。

抗えない程の強さではなかったけれど、それを不思議に思って顔を上げた。


「嬉しいのです、とても、とても…──! ですが、いけません……由羅様…っ、この様な時に……貴女は…──」


美しい相貌には悩ましげな表情が浮かび、あたしから視線を逸らすように目を伏せている。

彼の微かに速い熱い吐息に、どこか堪えるようなその様子を目にして、思わずそっと笑みを浮かべた。


「忘れているようなら思い出させてあげるけど、あたし……まだ弱ってるのよ。頭も相当鈍ってるから、今どんな事を言うか分からないわ」


黄金色の睫毛に付いている小さな雫に手を伸ばし、掬い取る。

微かに触れた瞼が震え、煌めく黄玉が遠慮がちにこちらを見据えた。


「今だけは……何をされても、何も言わないでいてあげる」

「お止め、下さいっ……。今、このような時に…っ、いけません……由羅様」


事実、やはり堪えようとしている彼に、追い討ちをかける形になった。

肩を掴む葉玖の手を取り、きゅっと握る。

こんな事までしてしまう自分が、まともだとはとても思えない。

この後どうなるかなんてどうでも良いと考えてる辺り、今のあたしの頭は鈍くぼんやりしてる。

──…だからこそ。


「あなたの理性を信じてる……」


瞼から頬、顎のラインからその先へ。

そして最後に、彼の蠱惑的な唇へ指先を宛がった。

──次の瞬間。

彼の腕が唐突にあたしの腰にまわる。

そのまま勢いよく腕の中に抱え込まれ──


「由羅様…っ」

「っあ、んんっ……!」


まるで箍(たが)が外れたように、性急にあたしの唇を塞いだ。


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