貴方に愛を捧げましょう


「貴女の肌は、とても甘い……」


彼が囁くと同時に熱い吐息が肌を擽り、思わず息が乱れた。


「私を誘う貴女の無垢な御体に、いつまでも触れていたい……」


耳元で吐息混じりに囁かれ、耳朶に唇が当たって、反射的に声が上がってしまった。

それに反応した葉玖が、正面に顔を戻してあたしを見つめる。

蕩けるような蜂蜜色の瞳に、明らかな情欲の色を孕ませて。


「由羅様……どうか、口付けの御許しを…──」


返事も待たずに、下から掬うように唇を寄せた彼からのキス。

最初こそは、そっと触れ合うだけのものだったけれど。


「ん…っ、は、ぁ……」


それは彼の熱い舌によって優しく気遣うように、そっと抉じ開けられた。

忍び込んできた舌は咥内を味わうようにまさぐり、くちゅ、と卑猥な水音を立てて吸われて。

頭の芯が痺れるような、むず痒い感覚が、身体の内を侵していく。


「っん、んん…──っ」

「──…っ、由羅様……」

そっと唇を食まれ、舌を絡め取られ吸われると、また身体が震えた。

軽い呼吸困難に陥ってはいるけれど、あの心因性の過呼吸とは比べ物にならない、別の苦しさがあたしを苛む。

葉玖の口元に手をやり、息をつかせて欲しいと意思表示すると、一端離れた彼は申し訳なさそうに微笑んだ。


「お辛いのですか…?」


はっ、はっ、と浅く早く呼吸するあたしの唇を指先で撫でた彼は、同時に背中を擦ってくれる。


「っ、ぅん……大、丈夫…っ」


ゆったりとした彼の手の動きに、徐々に呼吸を落ち着かせていく。

その間にも瞼や頬、首筋に口付けが落とされ、身体の熱は上がっていくばかりで。


「でも…っ、のぼせたかも……。頭、ふらふらする……」

「では、もう寒くはないのですね」

「うん……お陰様で」


すると最後に軽く唇にキスをした葉玖は、あたしを抱えたままゆっくり立ち上がった。

彼の和服がお湯を吸い上げ、そこには半分程しか残っていない。

浴槽を出ると、ずぶ濡れになった自身をどうするのかと思っていたら…──


「由羅様、どうか……恐れないで」

「なにを…?」


そこであたしを器用に片腕で支えると、もう一方の掲げられた手には。

青白い、あの魅惑的な炎──狐火が灯っていた。


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