貴方に愛を捧げましょう


そこに眩惑されたように、躊躇なく自身の手を持っていく。

ずっと触れてみたいと思ってた…──それが今、叶う。


青白い火が指先を嘗める、感じた事のないような不思議な感覚がした。

微かに息を呑む彼に目を向けること無く、その感覚を堪能する。

この炎の温かさは、彼のぬくもりと同じ。

揺らめく炎の中で繋いだ彼の手は、ひどく優しく温かかい。


「貴女は今、何をお考えになられているのでしょう…?」


黙り込むあたしの手をそっと引いた彼を見上げる。

どうしてそんな事を訊くんだろうと思いながらも、素直に答えた。


「あったかいなぁ……って」


そんな些細な一言を発しただけなのに。


「貴女という方は…──私を際限無く惹き付けて止まない」


あなたが具体的にあたしのどこに惹かれているのかは、解らないけれど。

額に落とされた口付けを心地よく思うあたしも、きっと、どうかしてる。


「それより……この炎、どうするの…?」


ああ、と相槌を打った彼は、あたしと指を絡ませながらふっと微笑む。


「水気を飛ばすのです」


それを聞いて、思わず声を出して笑ってしまった。

笑ったの、いつ以来だろう。


「便利な活用法ね」

「ですが、狐火に包まれるというのは……さすがに」


そこまで言って、彼の口を空いている手で軽く塞いだ。

何を恐れる必要があるのだろう、あたしに恐れなど微塵もないのに。

恐れを抱いているのは、きっと……あなた自身。

あたしに自分をどう思われてしまうのかを気にする余り、慎重になりすぎているのよ。


「してみせて…?」


白く儚げな頬をなぞり、勇気付ける。

悩ましげな表情を浮かべた彼は、それでも漸く、意を決したようで。


「──…では」


それを合図に、葉玖の足元から浴室全体にぶわりと風が吹き上げた。

次の瞬間には、あたし達は青白い炎に包まれていた。

それは例えるなら、見て触れられる暖かい風のようなもの。

彼が掛けてくれた羽織りを、指先から足の先までの全ての肌を、髪の生え際から毛の一本一本、その先端までを。

ふわりふわりと総てを柔らかくなぶられるような感覚に、無意識に感嘆の溜め息が零れた。

何よりも、狐火に包まれた葉玖は目を奪われる程に──神秘的だった。


「きれい……」


求めていたぬくもりは、今、ここに。


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