貴方に愛を捧げましょう
スプーンを置いて椅子の上で膝を抱え、その膝頭に顎を乗せると、こちらを見上げる彼をじっと見つめ返す。
何を考えてるの…?
「彼に関わる気は毛頭有りませんので、何も問題ないでしょう」
「……」
そうきたか。ほんとかな……?
「あなたがそう言うなら、別に構わないんだけど……」
「由羅様、どうか貴女のお側に…──」
そこでぐっと身を乗り出した葉玖は、あたしの視線を絡め捕りながら顔を寄せてくる。
お互いの唇それが触れる──その寸前。
鋭角的な顎先に指を添えて、彼を止めた。
扇情的な眼差しを向けてくる蜂蜜色の瞳に、微かな苦悶の色が滲む。
「由羅様……っ」
「もう一つ。言いたい事があるんだけど」
「──…何でしょう」
彼を邪魔したあたしの手を取り、代わりと言わんばかりに、その指先の一本一本に口付けていく彼からの熱をじりじりと感じながら、再度口を開く。
「あたしはもう、あなたの主じゃないのよ」
「承知しております。由羅様自ら、私の封印を解いて下さったのですから」
ふっと嬉しそうに微笑む美しい相貌を見て、何も解ってない、とあたしは首を振ってみせた。
それを不思議に思った葉玖は、顔を上げて問い掛けてくる。
「ならば……」
「あたしはお偉い人でも何でもないのよ。解る…? お願いだからいい加減、あたしの事をそう呼ぶのはやめて」
葉玖はあたしの手から顔を上げると、驚いた様子で目を見張った。
「由羅様、と……?」
「そうよ」
それは予想だにしていなかったようで、けれど表情に徐々に広がっていく、歓びの色。
「考えもしませんでした……。ですが、貴女がそのように仰って下さった事を大変嬉しく思います」
「──…そう」
心底嬉しそうにするものだから、それ以上は何も言えなくなってしまって。
「では、由羅……と、お呼びしても…?」
「……うん。そっちの方が良い……」
彼の余りに素直な反応に、反射的にぶっきらぼうに答えてしまう。
嫌だな……これじゃあ、ただの天の邪鬼じゃない……。
それでも気を悪くしない彼の手が、あたしの頬をそっと撫でる。
「──…由羅」
いつか、今よりほんの少しでも素直になれたら……いいんだけど。