貴方に愛を捧げましょう
冷たく感じられた出会い初めの葉玖の表情とは違って、彼の向こう側にいる銀髪の彼はにこやかに笑っている。
……うさんくささを感じるくらいに。
顔立ちも身に纏う雰囲気もどこかしら葉玖と似ている見知らぬ彼を冷静に眺めていると、不意に視界の端で何かが動いた気配がして。
そちらに視線をやると、そこにいる者の姿にまた目を離せなくなってしまう。
……だって。
「いけません威千様。ここは人様の御宅です、きちんと御挨拶をしなくてはなりません」
「いやな、早う葉玖の媛を見てみたくてなぁ。我慢出来ずに入ってしもうた」
悪びれる様子もなく軽快に笑う銀髪の彼を『威千様』と呼んだ子が……葉玖を里に連れ戻しにやって来た“尊”にあまりにも似ていたから。
多分あたしと同じくらいの背丈で、尊とそっくり同じ肩より少し上の長さの杏色の髪型は、極端な前下がりに切り揃えられたおかっぱ頭。
瞳も同じ、榛(はしばみ)色。尊とは対称的に黒の狩衣(かりぎぬ)を身に纏っていて──だけど声は、あの子の方がほんの少し高いかもしれない。
顔立ちは彼ら特有で中性的なものだけど、あの子は多分……。
「お気持ちは解りますが、とにかく威千様、一先ずは御挨拶を」
「そうよな。──我は威千、こちらは刹。もう遅いかもしれんが、上がらせてもらうぞ。葉玖の“媛”よ」
「はぁ……こんなとこで良ければ、どうぞ……」
葉玖の肩ごしに軽く会釈しながら、思わず首まで傾げそうになった。
『葉玖の“ひめ”』って、なんのこと?
「ねぇ、葉玖」
そこまで言ってからふと黙りこむ。何から訊こう……。
「彼女は体調を崩されていて、漸く回復されたところなのです。話をされる前に彼女をお部屋に連れても宜しいでしょうか」
「お、そうなのか。それはいかん、早く連れてやれ」
彼らのやり取りを上の空で聞いていた次の瞬間には、葉玖の腕に抱えられていて。
突然の浮遊感に驚きながらも反射的に腕を突っぱねて彼から身体を離そうとした。
「あたしはいいから構わないで…っ、自分で歩ける、から……っ」
「用心の為です、私に身をお委せ下さい」
「だからって……っ」
他人の目もあるし歩くくらいどうってことないのに、と言いかけて。
不意に鋭い視線を感じて顔を上げた。
あたしの部屋へ向かう葉玖の後ろをついてくる『威千』と呼ばれていた彼が──あたしをじっと見ている。
まるであたしを品定めしているかのような……測っているかのような。
先程までにこやかに笑っていた彼の“素”がかいま見える、葉玖の甘い蜂蜜色より、深く濃い色の瞳で。