貴方に愛を捧げましょう
なんだろう……気のせいでは決してないはず。すごく気に障る目付き。
何か言いたい事があるなら言えばいいのに。
葉玖に対する抵抗の手を無意識に止めた代わりに、ぶつかった視線を持ち前の気の強さから逸らさずに、睨むように見つめ返した。
彼らと顔を合わせてから、やって来た理由も何も訊かずに『話をする前に』と言っていたけど……葉玖は目の前の彼が何をしにやって来たのか検討がついているみたいだった。
葉玖が彼らと一体どういった関係なのかは知るよしもないけど、尊同様仲間ではあるはず。
それがどうしてわざわざやって来たのか。
しかも『刹』と呼ばれていたあの子と銀髪の彼との会話からして、どう考えても尊より位が高いであろう事が容易に想像つく。
そんな者が葉玖の元にこうして足を運んで来た。
考えたくはないけど、こうなるに至った経緯や要因がこれも容易に考え付く。
きっと──そう、夏に彼が里へ戻る理由となった何かが片付かなかったのだろう。結論は一つしかない。
彼らは……葉玖を呼び戻しに来た。
「どうぞ、横になられて下さい」
「……ありがと」
「礼には及びません」
そういえば……ここを引っ越す事を彼にまだ話していない。
ベッドに下ろしてもらい布団に潜りながら、両親の会話をふと思い出して意図せずため息を溢した。
気紛れで身勝手な二人の事だから、いつもの如く引っ越すタイミングは予告など直前のことで、決行日も突発的だろう。
この家に執着はないし、あたしに成す術はない。
けれど……。
「お辛い事はありませんか…?」
「平気よ。あたしの事はもういいから……彼と話をしてきたら」
温もりもなく冷えた布団に身震いしつつぎゅっと身を縮めていると、突然ふわりと香る穏やかな風が顔を撫でた。
同時にベッドが僅かに揺れて沈み、布団越しに確かなぬくもりを感じて振り返る。
そこにはあたしの身体を暖めるように寄り添う大きな金狐がいて、思わずふっと笑ってしまった。
「もういいから、行って」
元の体勢に戻ると葉玖を見上げてそのすぐ後ろにいる二人に視線をやると、感情の読めない難しい顔をしていた。
あたしの頬を名残惜しそうに指先でそっと触れた葉玖は、振り返って彼らに告げる。
「話をしましょう。……お部屋の外で」
「では、刹はここで待っておれ」
「はい」
三人は一言ずつ言葉を紡ぐと、葉玖と威千という彼は部屋を出ていき……あたしは刹という子と二人で残った。
……いや、正確には後ろに葉玖がいるんだけど。