貴方に愛を捧げましょう
「聞くとは? そなたの事か、二人の間にあった事か?」
「……っ」
やっぱり、あたしをからかってる? あたしの反応を面白がってるようにしか思えない。
それ以外の何があるっていうのよ、と思ったと同時に、もしかして……と、ある結論がふっと浮かんで過った。
本当にあたしをからかってるのだろうか、と。そうじゃなく、本当は。
「そう険しい顔をするでない、我は何も訊いておらんのだ。弟が解放されたという事実だけで充分だったからの」
……やっぱり。何も聞いていないんだ。
そう府に落ちた次の瞬間、続けられた彼の言葉は。
「我が聞いたのは…──二度と失いたくない、何より愛しい大切な者がいると。その者の傍に居たいと」
あたしを黙らせる内容だった。
そんなあたしの反応を真摯な眼差しでじっと見つめられても、返す言葉が浮かんでこない。
未だに戸惑う。こんなあたしに、どうして葉玖はそこまで……。
「我が聞いたのは、ただそれだけなのだ」
予想もしていなかった事実に、自分らしくもなく何一つまともな返事も出来なくて。
「そなたは一体、何を気にしておるのだ?」
「──っ! あたし、は……っ」
あたしは一体、何を伝えたかったのだろう。彼が言うように、何を気にしているのだろう。
出ない答えにもどかしさが募り、身体に巻き付けるようにしてくるまっている布団をぎゅうっと強く握りしめた。
「これまで弟との間にどのような事があったのか、我には追及するつもりなど毛頭ない。大事なのは“今”だ」
「葉玖を封印から解放する前、あたしは……彼に酷い事を沢山言って、ぶったことも…っ」
どうしてあたしは、こんな事まで口にしてしまっているのだろう。彼が本当に何も知らないと言うのなら、黙っていれば良いことなのに。
「それでも大切なのは“今”だ、そなたは…──」
「あなたは、こんなあたしの傍に葉玖が居ようとすることを赦せるんですか……っ」
……どうして。
「──そなたの名は、由羅といったな」
不意にこちらへ伸びてきた手が、いつの間にか彼から背けるようにして俯けた顔を強引に上げさせられてしまう。
あたしを覗き込むようにして見つめてくる彼は、肩に付く程の長さの髪を部屋中の壁を這うように覆いつくす青白い炎に反射させて、妖しくも艶やかに煌めかせていた。
あたしの顎の下にそっと添えられていた指先が離れていくのをどこか呆然と眺めながら、微かに頷く。
すると彼は揺るぎない声音で、力強くあたしに告げた。
「我が弟の目に狂いはない。そなたは葉玖が愛した者なのだぞ、あやつの心を惹くものを確かに持っておるのだ。そなたは自信を持って葉玖に愛されておれ」
葉玖よりも少し濃く深い色をした瞳は、どこまでも揺るぎなくて。
その言葉は不思議なまでの安らぎを伴わせて、いつの間にか冷静さを失っていたあたしの心を優しく穏やかに落ち着かせてくれた。