貴方に愛を捧げましょう
彼のぬくもりを手離したくない気持ち、彼が傍にいてくれることで得られる安らぎ。
そしてあたしは願った──傍に居て、と。
あたしが顔を上げて答える前にはすでにすっきりとした笑顔を浮かべていた彼に、意図せず困惑してしまう。何もかも見透かしていたような、優しい眼差しをこちらに向けて。
「そなたには既に答えが出ておるのではないか?」
「あたしは…──」
「誰をも好いた事がなくとも、“真の愛”を知らぬとしても、我が弟がそなたへ溢れんばかりの愛情を存分に注ぐであろう。何も難しく考える必要はない。そなたを心から愛しておる葉玖を、そなたはただ受け入れるだけでよいのだ」
ただ、受け入れるだけ……。ひたむきで純真な、狂おしいまでの葉玖の想いを。
そんなの、すでに──受け止めきれない程の想いを、彼は無償で与えてくれている。これ以上ないくらいに。
思わず言葉を失っていたところで、見上げていた先にある穏やかな微笑みに暗い陰が差したように見えた。
ふっと浮かんだ、淋しさのような……それだけじゃない、微かに苦悶の色も浮かんでいて。
「葉玖の兄としての願いでもあるのだ……これは」
「願い…?」
「ああ……そうだ。どうか、弟に大切な者を失わせないでやってくれ」
「……つまり」
「つまり、だな……人の一生とは我らより遥かに短命だ。加えて……か弱く儚い」
そこで堪らず眉を潜める。あまりに話が見えなくて。
「あなたの言いたい事が、よく分からない」
「分からない? そなた、弟に話は聞いとらんのか。あやつが封印に縛られていた訳を」
「聞いてない」
「──…そうか、話しとらんのか。葉玖は……」
今度こそ本当に驚いた様子を見せた後、ぽつりと呟くようにそう言って束の間黙りこんでしまう。
葉玖が封印されていた理由を訊くチャンスは、彼が封印に縛られていた数ヶ月の間にいくらでもあった。けれどあたしは聞こうとしなかった。
今では……少し、気になっていること。
今の彼は、訊けば答えてくれるのだろうか。
「まぁ良い。いずれそなたには、何もかも打ち明けることだろう」
向こうが沈黙している間、こちらはこちらで物思いに耽っていたところで不意に耳へ届いた明るい声。
そして続いた、切実な願い。
「今度こそ、我が弟には長く幸せでいてほしいものだ……」
その言葉が胸の奥に響き、同時に思う。
あたしに葉玖を幸せだと思わせる事が出来るのだろうか、あたしの傍に居て彼は幸せだと心から感じられるのだろうか──と。
「葉玖にしてあげると喜ぶことって、何かある…?」
すると飴色のような深みのある黄金の瞳を細め、彼は笑う。
術をかけたと言うのだから葉玖に聞かれるはずなど無いのに、まるでイタズラを企む小学生のように無邪気な笑顔であたしの耳元に顔を寄せ、囁いた…──。