貴方に愛を捧げましょう
「貴女は何も解っておられない。兄上は貴女を介して、私をからかっているのです……っ」
意図的に逸らされた瞳に熱が灯っている。そう……まさに、あたしを求める時の彼そのもので。
それに……確かに、あなたのお兄さんは明らかにあなたをからかっている。けれど、あたしは違う。
「──…そうなの」
堪えるように引き結ばれている薄く形の良い唇に手を伸ばして、その口を指先で抉じ開ける。
あたしの強引な行動にただされるがまま唇を開いた葉玖は、視線をこちらに戻し困惑の色を浮かべていて。
そんな彼の唇をなぞりながら、囁くように語りかけた。
「でも、あなたは喜んでくれたんでしょう? だったらそれでいいのよ、あたしは」
「貴女はそれでお済みなのでしょうが、私は……っ」
「……あなたは、なに?」
これで二度目。あなたが何を言おうとしているのか大体想像ついている。
言おうとしないのは、多分。
「あなたはどうしたいのか、言ってみて」
言葉にして行動に移す事を躊躇って、堪えているから。その証拠に、ほら……あたしに触れずに、布団を引き千切りそうなくらい握りしめている。
「今まで、あなたに悪いことしたと思ってるのよ。だからこれは、そのお詫び……」
「っ…──!」
甲にはっきりと白く筋が浮くくらい握られている手に触れながら、驚きに薄く開かれていた唇をそっと嘗めた。
かっと一瞬にして唇に熱が灯る。これはあなたを想う気持ちゆえ……なのかな。
「布団を引き千切るつもり…?」
「貴女は…っ、どうして……っ」
微かに乱れた吐息が熱い。美しい瞳を瞼で隠し、ごくりと喉を鳴らした葉玖の抑制しきれていない欲が、あたしの肌をじりじりと嬲る。
「ねぇ、途中で言葉を切るのはやめて。あたしにその先を予測しろって言うんなら……別だけど」
思わず皮肉めいた言葉が口を突いて出てしまう。こんな天の邪鬼なあたしの傍に居て、あなたは本当に幸せを感じられるの?
「それ以上、声を出さないで……っ」
「どうしてそんな──、あっ…!」
一瞬のうちに両腕が捕られ、ベッドに縫い付けられる。腕を掴むその手は優しいけれど、熱いくらいの体温が葉玖の想いの激しさをダイレクトに伝えてくる。
キスをされるのかと思ったけれど、そこで再び彼は歯を食い縛って動きを止めた。
苦しそう……。そんな表情してほしくないのに、させてしまうつもりもにかったのに。
「何を堪える必要があるの? あたしは一言も“やめてほしい”なんて言ってないのに」
あなたのお兄さんが来る前は、制止させようとしてもお構いなしにキスしてきたのに。どうして、今は。
「乱暴な事をして貴女を傷付けたくない…っ、それを貴女の所為(せい)になどしたくはない……! だからこそ…っ」
ああ……そういうこと、か。
「あたしのせいにすればいいのに」
「──っ!」
あなたの余裕を失わせようとしているのは、確実にあたしの行動のせいなんだから。それでも、それを解っているはずなのにあたしを責めないのは、あなたの優しさゆえ……なんだから。