貴方に愛を捧げましょう
「口ではそんなこと言ってるけど、あなたが優しいのは知ってる。堪えないで……触れて」
「止めて、下さ……っ」
言葉とは裏腹に、唇が触れ合いそうなまでに顔を一層近付ける彼の蜂蜜色の瞳が苦悶に歪んでいる。はらりと背から落ちた髪が頬を掠めた感触さえ、心地よく思う。
獣じみた激情を二つの黄玉の奥から垣間見て、あの大きく逞しい金狐がありありと脳裏に浮かぶ。美しくて、儚げで、どこか妖艶な雰囲気を纏う、温かな体躯。
そんな葉玖を見ていると……堪らなくなって。
「今、あなたの温もりを……感じたい」
「──っ、は……っ」
次の瞬間、魅惑的な唇が開きかけたのを見た時には──既に。
「っ、んん…──っ」
貪り喰らうような、息つく間もないキスが絶え間なく続く。呼吸さえままならなくて、息苦しさが甘い痺れとなって身体の芯を溶かそうとする。
「この…っ、狂おしいまでに貴女を愛する想いを……全て曝しぶつけてしまえば…──っ」
「っ…は、ん、ふ……っ」
葉玖のお兄さんが来る前にしていた時の余裕など微塵も感じられない。切羽詰まっていたものが急激に堰を切って溢れ出したみたいに、止まらない。
「きっと貴女を、壊してしまうでしょう……」
低く囁かれた言葉は、眼差しは、あたしを引き込んで離さない。壊されたって構わない、なんて。そんな風にさえ思わせられてしまう。
顎先に移った唇がそっと口付けを落とし、そして首筋へと移動する。唐突に解放された呼吸は乱れ、熱い舌に首の付け根を嬲られ、思わず身を捩ってしまいたくなる。
でも、それ以上に──もっと。
「んっ……あったかい。……もっと、触って」
他者から感じられるぬくもりを、身体が、心が、貪欲なまでに求めようとしている。それに応えてくれる彼の手が直に肌を這う感触に、心が熱く満たされていくような……そんな気までしていて。
「その様に、私を誘うかのようなお言葉……不用意に、なさらないで」
あたしの手を取った葉玖は、その掌にも口付けを落としていく。時折される手の甲への理性的な軽いそれではなく、ねっとりと、まるで味わい尽くそうとしているかのように熱に熟れた舌が這う。
「ぅ、ん……っ」
「お願いですから、もう少し量を増やして食事を摂られて下さい」
「……?」
葉玖から伝えられる熱に浮かされて、耳元に近付けられた唇と心地よい低音に頭の中を侵食されて、ぼんやりとした意識でまともに言葉を返せないでいると。
「貴女を抱き潰してしまいそうで……恐い」
そんな囁きが告げられて、思わずふっと笑ってしまう。こんな時まであたしの心配をするなんて、すごく……おかしくて。