貴方に愛を捧げましょう
あたしの周囲を取り巻き、他人が“日常”だと感じる日々は、あたしにとっての“非日常”だ。
何事にも干渉せず、関わりを持たない。
それが、あたしにとっての日常。
そこに突如として介入してきた、非日常。
転校初日にして、遅刻するか否かの瀬戸際だけど。
特に焦る事もなく、隠し部屋を出て自分の部屋に戻った。
そして二日前に届いたばかりの新しい制服を、クローゼットから取り出す。
それをクローゼットの取っ手に引っ掛け、空いた両手で今着ているTシャツの裾を掴んだ。
お腹の途中まで服の裾を引き上げたところで、ふと動きを止める。
彼の視線を背中に感じて、あたしは頭だけを後ろに向けた。
案の定、蜂蜜色の瞳と視線がぶつかる。
「ずっとそこにいるつもり?」
「──…ええ」
あたしから一メートル弱離れた場所に立つ彼は、ふわりと微笑みを浮かべる。
そう……それがあなたにとっての必要最低限の距離ってことね。
それ以上何も思う事はなく、前に向き直って彼の目の前で服を脱いだ。
下着だけの姿になって、その上から新品の制服を着る。
前の学校はブレザーだったけど、今度はセーラーか。
でも……意外と着やすい、それが何より。
その間、ずっと彼の視線を背中に感じていた。
そして再び、彼の方へと向き直る。
なんて無遠慮なやつなの。
そこで彼は“あたし以外”の誰かが見たら、きっと蕩けてしまうだろう笑みを見せた。
同時に、魅惑的な薄い唇を開く。
「とても、可愛らしいですね。よくお似合いです」
「……あなた、相当目がおかしいわよ」
あたしは思わず、眉間にぐっと皺を寄せた。
すると彼は目を見張り、驚いたような表情をする。
とんでもない、とでも言いたげに。
「思った事を率直に述べたのですが……」
「それがおかしいって言ってるのよ」
嘲るようにそう言い放つあたしを、じっと見つめていた彼は。
そこで何故か、物憂げな表情を浮かべる。
そんな彼を一睨みしてから、あたしはさっさと部屋をあとにした。