貴方に愛を捧げましょう
「──……、──…ゅ……」
「っ……」
「……羅、──…由羅……」
……っ、うるさい……。煩わしい……。
「……っ、ん……っ」
「──…、由羅ー?」
やけに遠くの方から呼ぶような声……。でも、こんなにあったかい布団の中にいるのに……出たくないのに。
「由羅ー」
「んんっ……ぅ、るさ……」
──…っ、これ……お母さんの声だ。一階からあたしを呼んでる……。
瞼を開いたけれど、真っ暗で何も見えない。
「由羅……」
今度は、心地よい低音。頭のてっぺんに柔らかいもが押し付けられる感覚がした。
……そうだ、ベッドで二人話していたはずなんだけど……途中で眠ってしまったみたい。
肌を刺すような冷気に晒されるのが憂鬱で、掛け布団の中に顔を埋めたまま口を開いた。
「……葉玖」
「目が覚めましたか…?」
そりゃあ……ね。
目が覚めた原因を考える事さえ煩わしくて、その問い掛けには答えない。
「今、何時…?」
「たった今、深夜二時を過ぎたところです」
深夜……二時? どうしてこんな時間に呼ぶの……。
「体調は如何でしょうか」
「ん……。大分、良くなったかな……」
身体の気だるさも無くなってるようで、全快とはいかなくても頭痛と吐き気に苛まれていた時よりは雲泥の差だ。
それにしても……変な時間に起こされたせいで目が冴えてしまって、寝付けない。
仕方ない、起きよう。もうあたしを呼ぶ声はしないけど、まだ一階に居るはず。何か用なら、さっと済ませてしまいたい。
寒さに対する覚悟を覚悟を決めて掛け布団からのっそりと出ると、視界の端に青白い揺らめきを捉えた。
この古く無駄に広い日本家屋の見本のような家には、どの部屋にもエアコンは取り付けられていない。
なのに掛け布団から出たのにやけに室内が暖かいと思いつつ、あたしに添うように──温めていてくれたのか、壁と自身の間で挟むようにして寝ていた葉玖越しに部屋の中央を見ると。
「綺麗ね……」
そこには大きな狐が一匹、九尾の先に狐火を灯して身体を丸め伏せていた。傍に居る葉玖と同じく、獰猛な獣の本性をひた隠して蜂蜜色の瞳でじっとこちらを見つめている。
ベッドを降りた葉玖に続きあたしも降りると狐の傍に寄り…──けれど思ったように力が身体に入らなくて。唐突にヘタリと正座を崩した状態で座り込んでしまう。
するとすぐさま葉玖が側に来て心配そうに声を掛けてきた。
「未だ体調が優れないようなら……っ」
「本当に大丈夫だってば……。頭がぼんやりしてるだけで……平気」
出ていた熱が引いた後は、いつも意識に靄がかかったようにぼんやりする。でもこれはいつものパターンで体調が随分回復した証拠。
目を閉じ、畳に掌をついて俯いていると、あたしの上半身をそっと引き寄せ彼の胸元にすっぽりと収められる。
お互いの口から安堵のため息がほっと零れた。