貴方に愛を捧げましょう
「ああ、またな。由羅」
「ええ、向こうに着いたら連絡するからねー」
そんな事するつもりなんて更々ないくせに。それに……されても困る。
「……、さようなら」
二人の耳には届かないだろう声の大きさで呟きながら部屋を出た。
あの二人と一緒にいると息が詰まる。ほら……今でさえ、息苦しいのに。
「……っ、はっ……」
「お辛いのですか…?」
胸を押さえながら俯いて歩いていたから、気付かなかった。
温かな腕に包み込まれて、ようやく気付く。部屋を出てすぐの所だから、あたしを待っていたのだろう。
抱きしめられた次の瞬間には彼の腕に身体を横抱きにされていて、でも抵抗する気も沸かず、それどころか彼の胸元に頭を預けていた。
「葉、玖……っ」
力の入らない手で襟元を掴み寄せ、深呼吸しようとした。
これはただの息苦しさではない。あの……心因性の発作だ。ほんと、情けない。
もう二度と、帰って来ないでほしい。中途半端な態度で親らしく構われると……苛々して堪らなくなる。
「如何なさいましたか…? 貴女の願いとあらば…──」
「眠り、たい……。夢も見ずに、ただ眠りたい……っ」
今はもう、とにかく何も考えていたくない。意識を手離してしまいたい。
滑らかな胸に顔を埋めて、喘ぐように息をした。
葉玖の匂いに落ち着いていくあたしは、もう本当に……どうしようもないところまで堕ちている気がする。
「では、貴女のお望み通り……夢を見ない眠りを、貴女に」
こんなあたしを、あなたは一体どう思っているの。
「さぁ、瞼を閉じて……私の声だけを聴いて」
身体も心も脆弱な人間を、どうしてここまで……想うの。
「今宵は、私の腕の中でお眠り下さい」
うん……きっとぐっすり眠れる。だって、こんなにも暖かいんだもの。
「私の心……私の全ては貴女のもの。狂おしい程に、貴女を愛しています」
だけど……葉玖。あなたに捧げられる無償の愛……あたしには未だに、解らない。