貴方に愛を捧げましょう
──…その後、教室の前に着く少し前。
「教室の中には入らないで。さっきの彼女みたいに、あなたのこと視える人がいるから……出来れば廊下にいて」
と刹に伝えておくと、さっきのことがあったばかりだからだろう。一も二もなく承諾してくれた。
そうして教室へ入る寸前、携帯電話で話をしながら出てくる男子とぶつかりかけた。
「うおっ、ごめっ……て、あれ? 望月さんだ、久しぶりだねー」
「……」
……誰か分からない。
あんまりにも軽い乗りで話し掛けてこられたものだから、少しうんざりした視線を送って彼の脇を素通りした。
「つんめた! 律の言う通りだなー、まぁいいけど」
そんな言葉が聞こえてきたけど、それも無視して席についた。
今が昼食時だから教室にいる人が数人しかいない。おまけに律もいない。
静かでいい。全部はしなくても出来る限りでいいと担任に渡された課題に、まずは取り掛かった。
それが少し進んだ──そんなところで、バタバタと盛大に教室へ走り込んで来たのは。
「お前が来たって聞いて──やっと体調、戻ったのか…っ」
「……、うん」
課題から目を外さずに頷いておいた。聞いた……って、ああ……多分、さっきの男子だ。
「つか、廊下にいる女は何なんだよ!」
「何でもない」
やっぱり視えるんだ……。そう思いながら顔を上げると、嫌悪感を顕にした律がそこにいた。
「胸くそ悪ぃな……追い出すか」
「やめて、放っておいて」
ていうか、声をもっと落としてほしい。教室に残ってる人達がこっち……というか、激昂気味の律を不振そうに傍観している。
こういう時はもう少し人の目を気にするべきだ。特異体質の律のためにも。
「気分が悪いのは分かるけど……」
「あいつ、戻ってきたんだろっ…!」
そこで不意にぐっと声を低くした律が、忌々しげにそう訊いた。ここで誤魔化すつもりなんてない。誤魔化そうとしたところで何の意味も成さないのはお互い思ってる。
「……そんなに嫌なら、あたしに関わらなければいいのよ。分かってるでしょ」
「お前のこと、友達だと思ってるって言っただろ。放っておけるかよ」
そう言われて、ほんの少し身を引きかけた。けれど威圧的に見下ろす律を見上げて伝える。
「あなたが……そう思ってくれているなら、あたしも言わせてもらう。もう少し静かにして。あなたのために言ってるのよ、解って」
そこで暫く互いに睨み合い──結果的には、律が先に折れた。
あたしの前の席に苛立たしげにドカッと勢いよく座って、やっと大人しくなってくれた。足を組んでこっちに身体を向けると、また課題を始めたあたしにだけ聴こえるように小声で喋る。
「……悪かったな、病み上がりなのに怒鳴って」
「……こちらこそ、心配してくれて……ありがと」
すると互いに無言になった──次の瞬間に言われた彼の言葉に、思わず殴りたくなった。
「お前……まだ、熱あんじゃねーの…?」
そんな腕力どこにもないから、しなかったけど。