貴方に愛を捧げましょう


「んで、これからも学校は来るんだろ? あいつと……由羅が、一体どうなったのか知らねーけど」

「来るよ。だからこそ留年したくなくて、こうして課題してるんでしょ……」

「なぁ、さっきから気になってたんだけどさぁ……それ全部すんの」

「……まぁ、出来るとこまでは」

「うげ…っ」


ずっとペンを動かしながら話していたから、彼がどんな表情を浮かべていたのかは分からないけど。それからは二言、三言、会話しただけで──それは中断することとなる。


「──…えーと、望月さん?」

「なんだよ……また来たのか、お前」

「堀江くんに会いにきたんじゃない……よ、望月さんと話がしたくて」


本日二度目の聞き覚えのある声に顔を上げると、案の定、例のあの子が宣言通り……だけど遠慮がちにやって来ていた。


「……私は、何も用なんてないけど」

「やめとけ、こいつに付き合ってもろくなことねーぞ」

「堀江くんには堀江くんの考え方があるのは分かってる。でも……私は違うの。きっと、望月さんなら分かってくれる気がするから……!」

「お前、いい加減にしろよ。由羅を余計なことに巻き込ませるな」

「違う! そんなつもりはない…っ、ただ…──」


今度は唐突に、何の前触れもなく律と霧島さんが言い争いを始めた。周りの目など二人とも気にせず、彼女は切なげな表情で、律は腹立たしげにぐっと強く腕を組んでいる。

……どうやら、あたしが休んでいる間に何か話を交わしていたらしいことは、彼らの言葉の節々で分かった。

でも……一体なにがあったっていうの。 


「ちょっと……二人とも一端、教室を出よう。私も出るから」


若干うんざりしつつも、このまま人が居る教室で二人の言い争いを見世物にはさせられないと思う自分がいて。

二人が何か言いたげにあたしを見る前にそう言い切ると、素直に廊下へ出てくれた二人と人気の少ない場所へ移
動した。





「……律は、少し待ってて」


むっつりと不機嫌そうではいるけど、律は相変わらず腕を組んでそっぽを向いた。

対する霧島さんは、じっとあたしを見つめている。本当に何を考えているのか分からないけど。


「あたしに話って? するなら聞くから、今」

「えっ!? もう、休み時間終わっちゃうよ…?」

「そう……もうそんな時間だったかな。じゃあ……」

「時間ねーならさっさと帰れ」


そこで律が黙っていられなくなったのか、ついに口を開いた。

どうしてそう喧嘩腰なの。その様子を見ていて、ふと彼が喧嘩っ早いことを思い出した。


「律……もう教室に戻ったら? あたし話聞いておくから、戻っていいよ」


さすがに女子に手を出すことはないだろうけど念のために勧めると──チッ、と盛大に舌打ちをして、律は先に教室へ戻っていった。

その後ろ姿を途中まで見送って、再び霧島さんと向かい合う。


「……とにかく、話しをすればあなたの気は晴れるのね?」

「晴れる、というか……その」


なんだろう……以前会った時は、もっとこう……明るい印象だったのに。


「あの、あの人……彼は、戻ったの…?」

「彼、って」


もしかして、葉玖のことを言ってる?


「彼に用なの?」

「ううん、彼じゃなくて……望月さんと彼とのこと、で……」

「……言ってる意味がよく分からないんだけど」


あたし達の話が訊きたいってこと? でも、だとしらどうして……。


「私、好きな人がいて……」

「好きな人…?」

「ううん……正確には“人”ではないの」


──……今、なんて言った?


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