貴方に愛を捧げましょう



「あたし、昼食買いにいくところだから」


そう告げて再び歩き出すと、彼女もまたついてくる。隣にやって来た霧島さんは、長く真っ直ぐな黒髪のポニーテールをさらりと流しながら遠慮がちに話しかけてきた。


「実は私も、今日はお昼持ってきてなくて食堂に行くところなの」

「…… そう」


惜し気もなく嬉しそうに笑って言う彼女を横目でちらりと見てから、また前を向いた。するとあたしの言葉を気にして、声を落として訊いてくる。


「髪、すごく伸びたんだね」


……多分、葉玖のことを言ってる。

斜め後ろにいる彼を見ると、なんだか不思議そうな様子で霧島さんを眺めていた。彼女が言った言葉は聞いていなかったみたい。


「……それについては、スルーして」


気になるのは分かるけど、説明するの面倒くさい。


「そんなことより、あなたが話をしたいって件だけど……」

「あっ、うん……!」


ちゃんと見なくても彼女がぱっと表情を明るくさせたのが分かった。あたしと違ってほんと……良い意味で単純というかなんというか……。


「放課後ここに残って話をするのは……彼が反対して聞かないから」


それは本当だった。

ここに来る前、今日の放課後に少し残って人と話しをするという主旨を伝えたら、彼はあからさまに渋るような顔をして見せた。

そしてあたしが今までどれだけ調子が悪くて寝込んでいたのかを、寝込んでいた本人に切々と語ろうとして……。

まぁ、要するに……早く帰宅してほしいということだったんだけど。

そのやり口が強引というには押しが弱く、けれどあたしが折れるまでは引かない。……そう、したたかだ。


「えっと……、あっ、そうだよね。望月さん、まだ全快したわけじゃないんだし……話は別にいつでもいいの!」

「……」


あなたはまるで気にしていない様子で言うけど……あたしは早く終わらせたい。そう心の中で呟いた。

そしたら彼女もあたしに構わなくなるだろうし。……というのが、本心だった。

霧島さんにはちゃんと悪意の無い“良い”友達がいる。彼女はその人たちと一緒にいるべきだ。

小学生の頃の律が、他の人には見えないもののせいでいつもボロボロだったように。

人当たりの悪いあたしの側にいるせいで、彼女に何かしら害が及ぶところなんて……見たくないから。

別に彼女に情が移ったというわけではなく、そんなことになったら……こっちの気分が悪くなる、だけ。いつも声を掛けられる度に、彼女を……蔑ろに出来ない程度には。


「……いつでもいいなら、今日でも構わない? さっさと帰るよう急かされるから、あなたがいいなら……あたしの家で」

「えっ!? 望月さんの家にお邪魔していいの?」

「え、……うん。あなたがそれでもいいのなら」


あたしの方に向き直ると身を乗り出さんばかりの勢いで嬉しそうな反応を見せられて、正直面食らってしまい、思わず言葉に詰まった。

それも……あたしの考えを知らないからこそ見せられる反応だ。そしてこんなやり取りも、今日で終われる。
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