貴方に愛を捧げましょう
彼と生きていく、希望……か。
あたしは本当に……この先、葉玖と共に生きていくのだろうか。生きていけるのだろうか。
あたしの方が確実に、先に命を落とすことを分かった上で…?
その後、葉玖は…──
「えっと、じゃあ……望月さんっ」
涙を振り払うように勢いよく立ち上がった霧島さんは、再度ありがとうとあたし達に伝えると。
「また明日ね!」
と別れ際に手を振りつつ、いつもの様子で帰っていった。
また明日、って……。
「はぁ……」
白い吐息を盛大に吐き出し、ぼんやりと昇り消えていくそれを見送ってから自室へ向かう。
肩からずり落ちかけた毛布をあたしより先に気付いた彼が掛け直して、そっと寄り添ってくる。
少し歩きづらく思っても、何も言わない。歩きやすさより寒さ対策の方が優先だ。彼にくっついてる方が暖かい。
きっと彼もそれを分かっててこうしているはず……。
「彼女は……何処かの神社の孫娘である先程と仰っておられましたが、その神社の名はご存知ですか…?」
「えっ? 確か、近衛神社、って……聞いたけど」
「このえ…? 近衛、とは……」
途端、彼の表情に陰りが見えた。
「どうしたの」
すかさず訊いたけど、彼は困惑気味に微笑んでみせるだけで。
「いえ……私も詳しくは……。いずれにしても杞憂に終われば、宜しいのですが……」
「なんだかはっきりしないのね」
まぁ、別にいいけど。ややこしいことは……避けたいし。
そう呟いて、着いた自室で服を着替えた。冷えた服に着替えると改めて寒さに震えるあたしをそっと横抱きにした彼は、そのままベッドの縁に腰掛ける。
彼の手がこちらに伸び、指先が唇に触れた。
「そのようなことよりも」
「……?」
そっぽを向いていたあたしの顔を自分の方に向かせた彼は、穏やかに微笑み続きを話す。
「先程貴女が仰って下さった言葉が嬉しかったのです」
「……さっきの、って。どの言葉であなたを喜ばせたの」
突然、何を言うかと思えば……。
呆れた視線を送りながら問うと、彼は益々嬉しそうに笑みを広げた。
「後戻りするつもりはない、と」
「ああ……それ、ね。……確か、前にも同じようなこと言ったと思うけど」
何時のどれ、とは言わないけど。
「じゃあ、言うけど。あなには何を言って聞かせても離れようとしないから、って言ったのは聞いてた?」
「ええ。貴女の言葉は一言一句聞き逃しておりません。ですが、その言葉すら愛しい」
「……、そう」
自分は本当に……天の邪鬼だと思う。
口にしてから気付く。今の言葉は言う必要無かったのでは、と。……そう、余計な一言。
葉玖をなにも疑っているわけでは決してない。要は、あたし自身の問題だ。
そんなことばかり言っていたら、いつの日か彼に呆れられて……嫌われてしまうことが、あるのだろうか……なんて。
「っ……」
……らしくない。霧島さんに対する自分の対応を無情だと思ったり。以前ならそんなこと、思いもしなかったのに。
なにもかも、以前ならどうでもよかった。
でも、今は違う。
そうなった要因は──明らか。葉玖という存在そのもの。
「ねぇ、葉玖」
「なんでしょう…?」
白い頬に自ら掌で包み込むように触れて、彼のぬくもりを感じて、今にもとろけてしまいそうな甘い蜂蜜色の瞳を覗き込む。
今、言うべきだろうか。
あたしはいずれ、あなたより先に死ぬのよ。それでも一緒にいたいの…? あたしの傍に……いてくれるの?
……なんて。
「どうかされました…? どこかすぐれないようでしたら……」
「……、なんでもない。呼んでみた、だけ」
別に、問い掛けることで返ってくるあなたの反応が……怖いわけじゃない。あたしが言うまでもなく、あなたは理解しているはず……だから。
「少し眠りたい、疲れた……」
葉玖の胸に顔を埋めて、芳しい花の香りを堪能する。
この穏やかな日常がいつまで続くのか……。あたし自身は変わらない、きっと。
全ては……彼次第。