貴方に愛を捧げましょう
檻に囚われし者
ある日の夕食時。
珍しく両親と揃ってご飯を食べていると、古いもの好きの両親が、どこかで古い家屋を見つけたと言う。
そして一週間後に、そこへ引っ越すと。
あたしは嬉しそうに笑顔を浮かべて話す、自分勝手な両親を冷静に見つめた。
両親の古いもの好きは、異常だ。
しなきゃいけない事はちゃんとして、しっかり働いてくれている共働きの両親のおかげで、うちは比較的裕福だと言えるだろう。
だからといって、骨董品を集めるにとどめておけば良いものを、今度は家?
買うのは両親だとしても、それであたしに何の相談も無しに引っ越すなんて……。
まぁ、いつものことだけど。
いつも何をするにも唐突で、二人とも自分達のことしか考えてない。
もちろん“自分達”の中にあたしは入ってない。
これは被害妄想でも何でもなく、実際にそうだと言い切れる。
仕事と趣味にかまをかけて、いつもあたしは蚊帳の外。
二人の話題も、あたしにはさっぱり分からない。
それは物心つく前から──ずっと。
引っ越し先はどうやら県外らしい。
高校生になって数ヶ月が経ち、やっと馴れてきた学校を、あたしは強制的に転校することになる。
あまりに唐突で、あまりに考え無しな提案だと思った。
いや、この場合すでに“提案”などではなく、もはや“決定事項”だったのだ。
事実、あたしは一週間後の今日。
両親が買ったという家の前に立っているのだから。
目の前に建つのは見た感じ、純和風の大きなお屋敷、といった容貌。
重厚な門、中を見せないかのように敷地内を囲う高い壁、背伸びしてやっと見えた屋根瓦。
確かに、両親が気に入りそうな家だ。
一体、中はどんな感じなんだろう。
あたしは古いものに興味はない。
重要なのは、外観は古くても中がしっかりした造りかどうか。
清潔で落ち着いて寝られる場所があれば、それでいい。
引っ越しの荷物を運ぶ業者の車を待つ両親を横目に、あたしはため息をついた。
過ぎてしまった事は、今更もうどうしようもない。
さぁ、あたしが気に入ることができそうな部屋を探しに行こう。