貴方に愛を捧げましょう
「あなたが本当は何を考えてるのかなんて知らないけど、あたしの言う事を聞かないと体の自由がなくなるんでしょう? それでもいいの?」
はっきり言って、あたしはどっちでもいいんだけど……あなたは、そうじゃないでしょ?
一瞬の間、あたしは彼を睨み付け、彼はあたしを静かに見つめていた。
感情の読めない、奇妙な表情を浮かべながら。
──…そして。
「解りました……仰せの通りに致しましょう」
彼のすらりとした手がこちらに伸ばされ、片手があたしの頭の後ろを支えるように、そっと添える。
ピアッサーを持つもう片方の手は耳に添えられ、ヒヤリとした感触が肌にあたる。
彼の身体から香る甘く芳しい花のような匂いが、あたしの鼻を擽った。
「宜しいですか…?」
「さっさとして」
彼の問い掛けに素っ気なく答え、一呼吸置いた後。
カチンッ、と素早く軽快な音が部屋に響いた。
肉を貫いた針の周りから、慣れた微かな痛みがじんわりと広がっていく。
慣れてる、はずなんだけど……。
「っ、……ん」
他人にされると、本人の意思など関係無く体が驚いてしまうみたい。
思わずくぐもった声が洩れた。
でも、ちゃんと貫通したならそれでいい。
「由羅様……」
「なに」
「血が、出ています」
それを聞いて彼を見上げると、微かに歪む美しい顔が目に入った。
黄金色の髪の隙間から覗く黄玉の瞳を見つめたまま、自分の耳に指先を当てる。
その指を見ると、確かに少し血が付いていた。
「大丈夫よ、このくらいなんてことない」
だけど出血が止まらないとピアスが付けられない。
面倒な事になったな……と思いながら、血を拭おうとティッシュを探そうとした。
でも引っ越しの荷物のせいで、どこにあるのか分からない。
そのおかげで、出血をどうにかしようとする気力がどんどん失せてくる。
そんな思いを知ってか知らずか、彼が奇妙な事を口にした。
「出血を止めましょうか…?」
「出来るの?」
「ええ……」
すると──あろうことか、彼の腕があたしを引き寄せた。