貴方に愛を捧げましょう
幻惑に澱む落陽
──ある日の夕暮れ時。
学校が終わって家に帰ると、いつも玄関にあることが少ない靴が二人分あった。
自分の部屋へ行く途中、話し合う男女の声が耳に届く。
居間で、両親の姿を一週間半ぶりにまともに見た。
一度自分の部屋に行ってから、喉が渇いたから飲み物を取りに台所に向かうと、珍しい光景が視界に映る。
お母さんが夕食作るなんて珍しい。
いつもは大抵、買ってきたお惣菜なんかを有り合わせにして食べるのに。
そんな事を思いながらぼんやりその様子を眺めていると、お母さんがあたしに気付いて声を掛けてきた。
最悪だ、さっさと部屋に戻れば良かった。
「なに?」
「この家にはもう慣れた? ほんと、深みがあっていいわよねぇ。あ、もうすぐ晩ご飯出来るからね」
「……食欲ない」
「あら、そう…?」
あたしに、自分達の趣味を押し付けないで。
あたしの顔を見て分からない? 気付かないわけ?
そんな事を思うのは、物心つき始めた頃からやめてしまった。
決して無理な頼みを言ったつもりはなかった。
けれど自分の考えを言っても思っても、無駄な事は百も承知だから。
両親のやる事なす事に、余計なことは考えず、何も思わない。
それが一番楽にやり過ごす方法で、幼い頃からそうしてきた。
そうしたら、感情まで無意識に出さないようになってしまった。
自分でも分かる。
あたしの心は──歪んでる。