貴方に愛を捧げましょう
向日葵の花言葉
それから数日後、何事もなく夏休みに入った。
あの日、倒れた彼女達はというと──葉玖曰く、その時の記憶を消したらしい。
多分、あの巨大な狐の姿の彼を見た記憶を。
“多分”というのも、彼が自ら話す以上には何も聞いてないから。
それ以上の情報なんて、あたしには意味を成さない。
そしてそれを聞いても、特に何も思わなかった。
しいて言えば、そんな事も出来るんだ、と思ったくらい。
彼との関係は──相変わらずで。
何も進まず変わっている訳もなく、彼が終始傍に居る生活に馴れてきたと感じるくらい。
他には、たいして気になることは…──
「ふぁ…──」
そう考えながら、小さくあくびをした。
最近お気に入りの、陽当たりの良い縁側で。
真夏だから日向ぼっこをするには、さすがに直射日光を浴びるとキツいけど。
今いる縁側の真上には、葉が豊かに生い茂った木があり、それが日影を作ってくれるからちょうどいい。
夏休みに入ってからは、大抵ここにいる。
夏休みに出された学校の課題は、有り余る時間の中の、ほんの三日で終わらせた。
出掛ける予定もないし、必要以上に動きたくない。
バイトをしてもいいけど、稼いだお金の使い道がない。
特に欲しい物なんてないから。
蝉の鳴き声を聴きながら、眠気に支配されかけている身体を縁側に横たわらせた。
夏休みに入ってからの日課は、ここでの日向ぼっこだけじゃない。
庭の花を愛でる、葉玖の姿を眺める事。
花を世話し、壊れ物を扱うように触れ、柔らかな微笑みを浮かべる、彼の姿を。
夏は好きだけど、この茹だるような暑さの中、あそこまで涼しげな顔をしてる彼はどこかおかしい。
まぁ、彼自身が普通ではないから、どこかおかしくても不思議じゃない。
不思議なのは、全く別の事。
例えば──あの薄暗く鬱蒼としていたはずの庭が、色彩豊かな花で満ち溢れている事。
草が生え放題の緑しかない庭だったのに。
あたしがここで一日を過ごすようになり、彼もまた、あたしの目の届く庭にいるようになってから。
二、三日もすると夏らしい彩り豊かな庭に変貌を遂げた。
一体、彼は何をしたんだろう。
あたしには害は無いし、花は好きだから良いんだけど。
それに訳を尋ねた所で、理解出来るだろう答えは返ってこないと思う。