貴方に愛を捧げましょう


「それでも、貴女は仰って下さいました。私を“逃がしてあげる”と。きっと貴女はあの時、私をただの動物だとお思いだったのでしょう……」

「なんとか、狐には見えたから」


あたしの皮肉に、再び彼は黙り込む。

けれどそれは一瞬の事で。


「──…貴女は慈悲深く、お優しい方。貴女のような方に封印を解いて頂きたかったからこそ、私は檻の中で狐の姿のまま居たのです」


紡がれた想定外の言葉に、すぐには何も答えられなかった。

あたし達を静寂のベールが包み込む。

あたしはゆっくりと振り返り、彼を見下ろした。


一体、そんなこと打ち明けてどうするつもり?

人間にいいように扱われて、それでも自分を封印から解き放ってくれるだろう人間に、期待をするの?


──…馬鹿馬鹿しい。

彼の考え方が全くもって理解出来ない。

どこまで可笑しな人なの。


「じゃあ、あたしが他の人達と同じ事をしたら、幻滅するのよね」


そうすれば、あなたの思い描いたあたしという幻想は、崩れ落ちるでしょう?

ろくに知りもしないくせに、例え想像でも、あたしという人間を勝手に創りあげないで。

自由のためとはいえ、自身の意思を放棄したような、自尊心の無い彼には──尚更。


彼の両肩に手を置き、ぐっと押す。

あたしの行動に驚く彼をそのままに、力の入っていない身体を──押し倒した。

彼の背が畳にぶつかる鈍い音が響く。


金糸がはらりと顔の回りに散らばり、蜂蜜色の瞳が驚きに見開かれる。

そんな彼の身体を跨ぎ、顔の横に手をついて静かに見下ろした。


「慰みものって……こういう事、するのよね」


二つの黄玉から視線を外し、白い首筋に指先を這わせる。

ゆっくりと、焦らすように。

こんな事したことなんてないから、よく分からないけど。


「由羅、様…っ」


戸惑うような声が耳に届く。

それでも抵抗するような素振りは無く、あたしを突き飛ばそうともしない。

嫌ならそれ相応の態度を示せばいいのに。

彼に視線を向けることはせず、更に手を這わせていく。


「嫌なら抵抗すればいい。あなたには、あなたの意思があるでしょう?」


そう告げながら、彼の首元の着物を軽く引っ張り下ろした。

着物がはだけ、白い肌に浮く鎖骨のラインが仄かな月明かりに照らされる。


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