貴方に愛を捧げましょう
あまりにも妖艶で蠱惑的な様に、一瞬、目が眩んだような気さえしてくる。
けれど、ここまでされても無抵抗な彼に、それにも勝る苛立ちを感じた。
「あなたは自由になりたいんでしょう? あたしは今、何も命令していないし強制もしてない」
「ですが由羅様…っ」
「他人の言う事を、自分の意思を抑え込んでまで素直に従っていたら、いつまでも“本当の”自由なんて手に入らないと思うけど」
そう冷たく言い放った瞬間、はっと息をのむ音がした。
それに構わず、晒された首筋に顔を近付ける。
──と、次の瞬間。
「由羅様……どうか、おやめ下さい」
突然、上半身を起こした葉玖に片手で両手首を掴まれて、気付けば身動きを封じられていた。
あたしは抵抗せずに彼の膝に乗ったまま、黙って見上げる。
はだけた着物をそのままに、苦悶の表情を浮かべる彼を。
「私の身体は穢れています。人間の欲にまみれた私は、本来なら貴女にはとても触れられるような分際では……」
そこで一旦言葉を切ると、彼は躊躇いがちに恐々とあたしの髪に触れた。
まるであたしが壊れ物であるかのように。
彼自身の事は自業自得だと思いはするけど、何故か、それを言うのが躊躇われた。
あたしを見つめる眼差しが、あまりにも優しくて。
「ですが、貴女は純粋で……思わず触れたくなるほどに、繊細で無垢です」
「あたしも人間よ。欲はある」
まぁ、普通より少ないとは思うけど。
それでも、あたしは人間だから無いわけじゃない。
「貴女は綺麗です。一切の穢れもなく美しい……」
「どうしてそんな事が言えるの。あなたの事を蔑ろに扱った者達とあたしは、同じ人間なのよ」
普通なら人間を恨んでもいいはず。
なのに彼は、そこで確かに微笑んだのだ。
「人間が皆同じだとは思っていないからです。人間の中にも、貴女のように良い方がおられるのを、解っているからです」
意思を持って、力強い眼差しをあたしに向けて。
確信を持ってきっぱりと言い切る彼の瞳からは、迷いなど感じられなかった。
……でも、そんな事より。
予想外の答えに気が逸れてしまった。
その言い様じゃあ、まるでそういう人に会ったことがあるみたいな……。
だけど、もういい。
もう何も聞きたい事はない。
この話しは、これでお終い。