貴方に愛を捧げましょう
とりあえず、体をぐるりと一回転させて──部屋を出ようとした瞬間。
さっきと同じ、色違いの壁が視界に映った。
まだ部屋があるの?
そう思いながら色違いの壁に近付いて、さっきと同じように壁を押してみた。
「開かない……」
ちょっと離れて、もう一度じっくり壁を眺めてみる。
……なんだ、窪みがあるじゃない。
今度は引き戸式?
「茶目っ気のあるからくり屋敷ね」
思わずそんな言葉が口をついて出た。
一人ひねた笑みを浮かべて戸を引くと──視界に飛び込んできたのは。
「えっ……」
狭い部屋に無理矢理詰めこんだような、大きな檻。
その中にいる、黄金色のふわふわした体毛に覆われたもの。
檻に見合った大きさの──
「きつ、ね…?」
それも、普通の狐じゃない。
人間のあたしより大きい。
熊くらいの大きさがあるかもしれない。
それに普通の狐とは決定的に違う、もう一つのそれは。
胴体と同じくらいの長さと大きさがありそうな、九本の尾。
九本……狐って、尻尾が九本もあるの?
本物は見たことがないけど、テレビでなら見たことがある。
あたしが見たことのある狐を大きくして、尻尾を九本にすれば……目の前のそれになる。
大きさが大きさだから、かなり怖い。
けれどそれと同時に、恐ろいほど美しくて。
意思とは関係無く目を奪われて、魅入るように見つめてしまう。
目を閉じて丸まっているから、まるで眠っているようだ。
それか、完璧に復元された剥製みたい。
……だけど。
太い鉄格子に囲まれたそれは、不意にゆっくりと頭を上げた。
瞼が開き、動物ではあり得ないくらいの知性を感じられる、その瞳。
思わずはっと息をのむ。
すらりとした面長の頭に、黄玉(おうぎょく)をはめ込んだよう。
蜂蜜色の瞳と、目が合った。