貴方に愛を捧げましょう
そんな事であたしの心は揺らがない。
今も尚、彼の言葉は信用出来ないから。
彼の身の上話は──疑う余地もない。
嘘を語れば自由を失うんだから。
まぁ、それを確認出来たわけじゃないから、まずは証明しないと。
そしてその時は、彼が動けなくなる時。
あたしは今でもそうさせる方法を考えてる。
けれど……以前ほど彼を煩わしく思わなくなったのも、事実だった。
「どちらへ…?」
何も言わずに黙って玄関へ行き、靴を履いていると。
案の定、彼が声を掛けてくる。
「アイスが食べたくなったから、コンビニに買いに行って来る」
以前は彼の声を聞くだけで気に触っていたのに。
もちろん、僅かでも視界に映っていても。
だけど今は……前ほどじゃなくなった。
ホント、慣れってすごい。
振り返ると、心配そうな表情の葉玖がそこにいた。
ぐっと彼を見上げて、微かに笑みを浮かべて見せる。
「ついて来なくていいのよ。良い子でお留守番してくれれば、それで」
「夜道は、危険ですから……」
そう、静かに囁いて。
あたしの軽口にめげる事なく、結局、彼はついてきた。
家から出ると辺りは真っ暗。
この辺りは街灯が少ない。
街灯の代わりになるのは、建ち並ぶ家々から零れる明かり。
それでも充分、視界は良好だ。
「由羅様……お尋ねしても宜しいでしょうか」
前だけを見据えて黙々と歩くあたしに、彼が少し後ろから声を掛けてきた。
あたしは振り返らずに、視線だけ移す。
「……なに」
「長らく二週間程居りませんが、貴女のご両親はどちらに…?」
「知らない。仕事で出張か、旅行じゃない?」
二人は長く家を空ける時でさえ、置き手紙一つしない。
それはもう日課のようなものだ。
「あたしが餓死しない程度のお金は置いてくれてるから、何も問題無いと思うけど」
そこで振り返って、彼を見た。
表情は固く、こちらをじっと見つめる蜂蜜色の瞳は、潤んでいるように見える。
綺麗な顔はこわばって、何かに耐えているような、そんな様子。
そこで、彼が何故そんな事を気にしたのかという考えより、別の事が気になった。
どう思ってるの?
「同情する? 可哀想?」
もちろん、どっちもお断りだけど。
その問い掛けに彼は……何も答えようとはしなかった。