貴方に愛を捧げましょう


当時、あたしが小学校に入ったばかりの頃。

例に漏れず両親に一言も告げられずに、二度目の引っ越をした。

その引っ越し先が──あのマンションだった。


そして今回のように、中途半端な時期での転校。

当然、周りは知らない人ばかり。

その頃にはすでに、両親は仕事でほとんど家には居らず、おかげで益々あたしは人間不信に陥っていた。


その頃、日課になっていた事。

それがあのブランコで、ぼんやり空を眺める事だった。


そんな時、よく見かける男の子がいた。

同じマンションに住んでいて、目付きが悪く、いつも痣や傷だらけ。

まるで毎日のように喧嘩しているみたいに。


それが、律だった。


初めの頃から何度か目が合ってはいたけど、お互い言葉は交わさなかった。

話し始めたきっかけは、喧嘩を売るような勢いで突然あたしの前にやって来た、彼から。


「お前、なんでいっつもそこにいんの」

「空を眺めるのが好きだから」

「……ふーん」


あたしは聞かれた事に答えただけなのに、それに対し、彼は呆気に取られた表情を見せた。


「どうしていつも、そんなに傷だらけなの」

「喧嘩したから」

「なんで?」

「みんな、俺のこと嘘つき呼ばわりするから」

「嘘つき?」


そんな話をしたのは、数日後。

お互いの警戒心が解け始めた頃だった。


「俺は嘘なんか言ってねーのに、みんな嘘つきってゆーから……ムカついて殴ったら、喧嘩になった」

「なに言ったの」

「あー……色々、見えるって」

「……は?」

「だから!! 見えるんだよ。ユーレイとか、そういうのが色々!」

「ふーん」


それは……仕方ないじゃない。

そういうのって、見える人と見えない人がいるんだし。

実際、あたしは見たことない。


「今もここにいる?」

「いるよ、そこら中に」


そこで律は、何も無い道路を見て不機嫌そうに顔をしかめた。

でもすぐに向き直って、怒ったように睨んでくる。

……なんで睨むのよ。


「なんだよ、どうせお前も俺のこと嘘つきだと思ってんだろ」

「ううん。そういう人って本当にいるんだ、と思っただけ」


すると律は驚き、徐々に表情を和らげた。

そして一言。


「変なヤツ」

「あんたに言われたくない」


あんなに変わった人……どうして忘れられたんだろう。


< 53 / 201 >

この作品をシェア

pagetop