貴方に愛を捧げましょう
当時、あたしが小学校に入ったばかりの頃。
例に漏れず両親に一言も告げられずに、二度目の引っ越をした。
その引っ越し先が──あのマンションだった。
そして今回のように、中途半端な時期での転校。
当然、周りは知らない人ばかり。
その頃にはすでに、両親は仕事でほとんど家には居らず、おかげで益々あたしは人間不信に陥っていた。
その頃、日課になっていた事。
それがあのブランコで、ぼんやり空を眺める事だった。
そんな時、よく見かける男の子がいた。
同じマンションに住んでいて、目付きが悪く、いつも痣や傷だらけ。
まるで毎日のように喧嘩しているみたいに。
それが、律だった。
初めの頃から何度か目が合ってはいたけど、お互い言葉は交わさなかった。
話し始めたきっかけは、喧嘩を売るような勢いで突然あたしの前にやって来た、彼から。
「お前、なんでいっつもそこにいんの」
「空を眺めるのが好きだから」
「……ふーん」
あたしは聞かれた事に答えただけなのに、それに対し、彼は呆気に取られた表情を見せた。
「どうしていつも、そんなに傷だらけなの」
「喧嘩したから」
「なんで?」
「みんな、俺のこと嘘つき呼ばわりするから」
「嘘つき?」
そんな話をしたのは、数日後。
お互いの警戒心が解け始めた頃だった。
「俺は嘘なんか言ってねーのに、みんな嘘つきってゆーから……ムカついて殴ったら、喧嘩になった」
「なに言ったの」
「あー……色々、見えるって」
「……は?」
「だから!! 見えるんだよ。ユーレイとか、そういうのが色々!」
「ふーん」
それは……仕方ないじゃない。
そういうのって、見える人と見えない人がいるんだし。
実際、あたしは見たことない。
「今もここにいる?」
「いるよ、そこら中に」
そこで律は、何も無い道路を見て不機嫌そうに顔をしかめた。
でもすぐに向き直って、怒ったように睨んでくる。
……なんで睨むのよ。
「なんだよ、どうせお前も俺のこと嘘つきだと思ってんだろ」
「ううん。そういう人って本当にいるんだ、と思っただけ」
すると律は驚き、徐々に表情を和らげた。
そして一言。
「変なヤツ」
「あんたに言われたくない」
あんなに変わった人……どうして忘れられたんだろう。