貴方に愛を捧げましょう


同じマンションに住んでいたあたし達は、当然、同じ小学校に通っていた。

そこで度々見かける、多人数に対し一人で挑む、彼の姿。

多分また、彼の生まれつきの厄介な力に難癖をつけられたんだろう。

律は血の気が多く、喧嘩っ早いやつだった。

……けれど。


「その傷は喧嘩で出来たんだろうけど、その痣は何? おかしいよ、それ」


生傷の絶えない彼の身体は、不自然なアザも多かった。

不躾にも、あたしは聞いたのだ、痣の原因を。

今ならきっと聞かなくても分かる。

だけど彼は、なんでもない事のように話してくれた。


「母さんに殴られた」

「そんなにいつも? だから消えないの?」

「ん……まぁ、仕方ねーよ。俺はおかしなモノが見える、変なヤツだから」


その時の律に悲しむ様子はなく、じっと前を見据えていた。

他人に何を言われようと意思を曲げない律は、おかげで益々、喧嘩が強くなっているようだった。

それに対して、あたしはどう…?


「お前、いっつもブランコでぼーっとしてるけど、親は?」

「仕事」

「夜になってもここにいるじゃん。怒られねーの?」

「帰って来るの遅いし、二人とも、あたしに興味無いから」

「なんだよ、それ」


律のその声には怒りが滲んでいた、そんな気がする。

あたしと律は境遇は違えど、どこか似ていたように思う。

律の母親は、自分ではどうしようもない彼の力のせいで、子供に暴力を振るう人だったようだけど。

でも、父親はとても良い人らしい。

彼の話を聞いて、そう思った。


一方あたしは、物心付く前から両親に関心の目を向けられず、ほとんど独りの時間を過ごしてきた。


あたしも彼も、心に闇を住まわせている。

それをお互いに感じ合えていた時間が、例えどんなに短かったとしても。

あたしが過ごしてきた時の中で、忘れ去られるような人ではなかった。

忘却は一時的なもので、心の奥には、残っていた。

それに気付いて、自分でも少し驚いた。


だって、あたしが誰かの事をずっと覚えてるなんて……。

それがどうして、彼の事は思い出せたんだろう。

今まで会ってきた人の誰とも違ったから?

……そうかもしれない。

外見は年相応に変わっていても、この場所と景色は変わっていない。


今の彼は──どうなんだろう。


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