貴方に愛を捧げましょう
「でも正直言って、最初に見た時は本気で誰か分からなかった」
そりゃあ、ピアスだらけだし、数年経てば見た目も多少は変わってる。
律の事を思い出すと同時に自身の事も思い出して、あまりの変わりように自分でも不意に驚いた。
そう、変わったのは“外見”だけ。
あたしは昔から、何一つ変われていないんだ。
「……それじゃ、どうして気付いたの」
「最初は名前。お前の苗字も名前も、珍しいだろ。その次は、死んだ魚みたいな瞳を見て」
「ははっ、褒めてくれてありがと」
「ほら、そういう皮肉めいた言い回しとか。全然変わってねぇし」
そこで無邪気に笑った律は、すぐにその笑顔を引っ込めた。
……もったいない。
夜風がふわりとあたし達を撫でていく。
さらさらと揺れる髪と同じ黒い瞳が、あたしをじっと見つめる。
ふとこちらに手を伸ばした律の手が、癖の強い髪を一撫でし、そしてピアスだらけの耳に指先でそっと触れる。
「なぁ……なんでこんな事したんだよ」
「放っておいて、自分の事は自分で…──」
「由羅!」
ガシャンッ、とブランコの鎖が擦れる音がしたと思ったら。
靴底が地面を強く蹴る乾いた音が続き、マンションからの明かりが遮られて。
ふいと逸らした顔を、温かく大きな手で顎先を掴まれて、強引に顔を上に向かされる。
再び、視線がぶつかり合った。
真剣な表情の律が、綺麗な形の目であたしを見下ろす。
「自分の事、むやみに傷付けんな」
「昔、あんなに喧嘩ばっかりしてた人と同じ人だとは思えないね」
「話を逸らすな」
そう強い口調で返されて、思わず律を睨み付けた。
逸らしたくもなる。
似たような事を、前にも言われたんだから。
潤んだ蜂蜜色の瞳が脳裏に浮かぶ。とろりとした魅惑的な声が甦る。
まるで壊れ物のように、そっとあたしに触れる、異質な彼の優しい手。
“貴女を傷付けたくはありません”
律まで、そんな事を言うの?
そんな事……あたしにとってはどうだっていいんだから。
「葉玖と同じようなこと言わないでよ……」
視線を落として、思わずそう呟いた。
そこでふと、無意識に出してしまった名前にはっとする。
再び視線を戻すと、律は目をすがめてあたしを見ていた。