貴方に愛を捧げましょう
「同じような事…? 誰だよそいつ」
「……っ」
「“ハク”って、もしかしてアイツの事か。白い着物姿の金髪…──」
「先に、手を放して」
質問に答える前に言い放つと、彼の手がすぐに離れた。
自由になった頭を動かして辺りを見渡す。
そういえば、彼はどこに行ったの。
マンションの明かりが届く範囲にも限界はある。
……向こうの方は暗くてよく見えない。
必要以上にあたしから離れれば、契約違反になるって言ってなかった?
「由羅」
「──…そうよ。やっぱり、見えてたんだ」
「ああ……。視(み)えてる」
怒気を含んだ、これみよがしに低い声音で律は答えた。
……なんで怒ってるの、わけ分かんない。
律の様子の変化の原因を考えながら、なんとなくマンションの方を眺めた。
時折、エントランスを行き交う人達がいる。
けれどここは、エントランスから少し横に位置していて、間に木も植わっている。
人の目を気にしなくていいから、好都合だ。
「“今でも”見えてるのね」
結局、原因が分からず不思議に思いながら、律の横顔を見上げると。
その眼差しはただ暗闇を見つめていた。
「──…ああ。しかも年が経つにつれて強くなってる」
「えっ?」
強くなってる…? どういう意味?
その答えを求めようと口を開きかけたけど、先に律が、再びひねくれた笑みを見せる。
「まぁ、俺の事は気にすんな。それより、何なんだよアイツ」
「……言わなくても分かってるんでしょ」
「人間じゃないのは分かってる。なんで由羅にべったりくっついてんのかって話だよ」
「あたしが彼の封印を一時的に解いたから」
そこであたしは、かなり簡潔に説明した。
こうなるに至った原因を、未だに怒気を含んだ眼差しだけで、話せと凄んでくる律に。
一瞬、勝手に話していいものか迷ったけど、すぐに思い切って口を開いた。
あたしはまたブランコに座って、淡々と話した。
彼を解放するまでの経緯、彼があたしから離れない理由、他にも色々。
本当に必要な部分だけ。
話し終わって顔を上げると、律が目を見張ってあたしを見下ろしていた。