貴方に愛を捧げましょう
しばらくして、律は盛大なため息をつき、一言。
「何やってんだよっ……お前は!」
「知らなかったのよ。彼から話を聞いて知ったんだから。あたしは律じゃないんだし、そんなこと言われても……」
そんな呆れたような目であたしを見ないでほしい。
あれは…──そう、不可抗力だったんだから。
もし、前もってそういう分野の知識があったら、絶対あの御札を剥がしたりしない。
それだけは言える。
今更もう何を言っても遅いけど。
そこで不意に、律があたしから視線を背けた。
そして…──
「なぁ。いい加減、姿見せろよ」
唐突に告げられたそれに、あたしは驚いて目を丸くした。
暗闇のどこかを、律は確信を持って見つめているようで。
その理由は尋ねなくても明白だった。
「彼に会いたいの?」
「会いたかねぇよ。ただ……話がしたいだけだ」
そう答えて暗闇に目を凝らす律から、チッ、と舌打ちをする音が聞こえた。
彼は出てこない。……それなら。
「葉玖」
あたしが呼べば必ず出てくる。
律が“本当は”何をしたいのかは、彼と引き合わせばきっと分かるはず。
不穏な空気を纏う律は、葉玖のような人間ではない何かを、昔も──多分、今も嫌っている。
それなのに、わざわざ葉玖に会いたがる理由が分からない。
……だったら、会わせてみよう。
「出てきて」
そう告げた──次の瞬間。
強い風が辺りを駆け抜け、音を立てて木々を揺らし、あたし達に吹き付ける。
視界の端で、青白い何かが揺らめいた。
それに気付いた時には、すでに律はそちらへ視線を向けていて。
あたしも少し遅れて律と同じ方を見た。
「由羅様……っ」
そこにはもちろん、葉玖がいた。
けれど今まで見た彼の姿のどれとも違う。
憂鬱な面持ちに、蜂蜜色の瞳は煌々と底光りして。
黄金色の髪は、威嚇する獣のように僅かに膨らみ広がっている。
けれど、そんな事はたいして気にならない。
目を見張ったのは──足元が、青白い炎で囲まれていた事。
こちらに近付いてくる最中も、それは陽炎のようにゆらゆらと揺れ、青いながらも確かに燃えている。
不思議なのは、彼が焼かれていないという事だ。
普通、火は赤いものでしょう?
彼を囲うそれには、赤の要素が全く見られない。
……あれに触れたら、熱いのかな。