貴方に愛を捧げましょう


「お前、それで威嚇してるつもりか?」

「貴方が……私を逆撫でする様な念を送っておられるからでしょう」

「ははっ! だから出てこなかったのか」

「気に障るならば、止められては如何ですか……」


不思議な青い炎に魅せられている間に、二人はあたしを間に挟んで会話を交わしていた。

適度に距離をとって。


ふと顔を上げると、あたしを見つめる葉玖と目が合った。

すらりとした手を差し出し、魅惑的な声で告げる。


「帰りましょう……由羅様」


僅かに眉間に皺を寄せ、それでも、蕩けるような微笑みを浮かべて。

だけど、あたしの後ろにいた律がそうはさせなかった。


「まぁ、待てよ」


あたしの肩を引き寄せると、きつく囲うように抱きしめた。


「誰が黙って化け物と帰らせるか」


どすを利かせた、恐ろしく低い声で囁いて。


「……今更そんなこと言われても」


律の突然の行動に驚きながらも、あたしは冷静に言い返した。

だって葉玖と一緒にいた事は、以前から知っていたはず。

学校にまでついて来てたんだから。


律の腕の中で後ろへ身を捩り、冷めた眼差しを投げ掛けた。

そんなあたしに、律は呆れたような表情で腕の力を緩める。

でも腕を掴んで放してくれない。


「ほんと、マジで冷めてんな。お前」

「……今更、そんなこと言われても」


何回言わせる気よ。

──…っていうか。


「“念”ってなんの事? 一体、何してるの」

「さっき言っただろ。力が強くなってるって」

「さっき、気にすんなって自分で言ったの忘れた?」


葉玖の足元で揺らめく炎に照らされて、ほんのりと青白く見える律の顔。

そこにはイタズラっぽい笑みが、ぱっと浮かんだ。

そう、忘れたってわけ。


でも、そんな事より。

あの青い炎が……すごく、すごく気になって仕方がない。

気が散って、律の反応にさえ思考が回らない。


「付きまとわれても、昔はどうにも出来なかったけど……今は違う」


そこで律の視線があたしから逸れ、葉玖に移って。

今度は意地悪い笑みを口の端に浮かべた。


「今は、追い払えるようになった」


律にならって葉玖へ視線を移すと、今度は眉間に深い皺が出来ていて、笑みは完全に消えている。

恐ろしく美しい顔に表情が無いと、まるで精密に創られた人形のよう。


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