貴方に愛を捧げましょう
生きてる……。
でも、そんなことより。
自分の目が信じられない。
鋭くも澄んだ蜂蜜色の瞳があたしの姿を映し、あたしもはっきりと檻の中にいる狐の姿を見ているのに。
美しい黄金色の大きな体躯が、柔らかそうな九本の尾が。
あたしにその存在を否定させる。
「由羅ー? どこにいるのー?」
その声に、硬直していた体がビクッとした。
お母さんの声だ。
恐ろしく思えるほど惹き付けられて、蜂蜜色の瞳から目が離せない。
だから振り返らずに後ずさった。
どうしよう、これ……。
お父さんとお母さんに言うべき?
でも、頑丈そうな檻の中に入ってるし、暴れる様子はない。
もし言ったらどうなるんだろう。
きっとパニックになって……警察沙汰になるかもしれない。
やだ、それだけは勘弁してほしい。
引っ越す前ならまだしも、もう引っ越し先に着いたのに。
あたしは少しずつ後ろへ下がって、隠し扉に手をかけた。
お願いだから暴れないで大人しくしててね。
そう思いながら、無理矢理あの鋭い瞳から視線を外して、そっと扉を元に戻した。
慌てて部屋を出て二つ目の隠し扉を閉めてから、大きく深呼吸した。
心臓がドクドクいってる。
あの檻の中に閉じ込められている大きな狐が、頭から離れない。
「由羅ー、二階にいるの?」
「待って、今行くから!」
あぁ……頭痛い。
あたしはただ、平穏無事に過ごしたいだけなのに。
引っ越し、転校、それだけでも生活リズムが狂うのに、それに加えて……。
「はぁ……」
前の住人が隠していったのかな。
これは直感だけど、馬鹿馬鹿しい考えだとは思うけど。
脳裏に浮かぶ黄金色の大きな狐に関して、これだけは言える。
あの恐ろしく美しい狐は……普通じゃない。