貴方に愛を捧げましょう
再び辺りに不自然な強い風が吹き付け、草木がざわざわと不気味な音を立て始めた。
葉玖の両手には──驚いた事に、あの青白い炎が灯っている。
「貴方の霊力は高く、私達にとって負となる力です。これ以上、私の神経を逆撫でするのであれば、この炎が暴走しても致し方有りませんが……」
視界の端で、葉玖の青い炎が大きくなったように見えた。
けれど、今度こそ炎から意識が逸れてしまう。
葉玖が言った、あの言葉……。
“私達”?
「“私達”ねぇ……」
律の呟き声が後ろから聞こえてきた。
その呟きは、あたしと同じ言葉で引っ掛かった証拠。
私達って、葉玖のような者達って事?
「まぁ、やってみれば? 俺の力は、お前にとって負になる力なんだろ。けど、実際に効くかどうかなんて分かんねぇし、試してみれば?」
不敵な笑み、挑発的な口調。
一体、何がしたいの。
「理由は知らねぇけど、学校で見たところお前、由羅を大事にしてるみたいだし」
律に掴まれていたままの腕を、突如、強引に引っ張られた。
「律──っ!?」
次の瞬間には、再び律の腕の中にいた。
「由羅に当たること覚悟でな」
……あたしは人質か。
律の読めない行動に苛立ち、絡む腕を無理矢理に引き剥がした。
意外にもあっさり解放してくれた律に背を向ける。
「あたし、もう帰るから」
そう冷たく言い放って。
──…だけど。
「“私達”って言えばさぁ……」
突然、律が話題を変えて話を始めた。
もう……何なの。
「小学校の時に遠足で、どっかの山ん中に行ったんだよ」
「それがどうしたの」
思わず振り返って突っ掛かったら、律の方へ振り向かなかった葉玖と目が合った。
いつの間にか、あの不思議な青い炎は消えている。
その事に気付いた後、不意に二つの黄玉が、何かを切実に訴えているように見えた。
けれどその“何か”が分からない。
何が言いたいの、とさっきまでの苛立ちが影響しているせいで、彼を睨みながら律の話に耳を傾けた。
「その時、そこで会ったんだよ。そいつによく似たヤツに」
「……えっ?」
聞いた言葉を一拍置いてからのみ込み、蜂蜜色の瞳からゆっくりと視線を外して、律を見ると。
何かを思い出すように、上を向いて夜空を仰いでいた。