貴方に愛を捧げましょう
だって、そんなこと出来ないと……勝手に思い込んでた。
尋ねるまでもなく、出来るはずがないって。
「なぁ、封印を解く方法はないのかよ」
「……」
律が尋ねても答えは返ってこない。
葉玖は黙り込んだまま、相変わらずぴくりとも動かない。
律の鋭い眼差しが再びあたしに返ってくる。
黄金色の髪で顔が隠れて、律の問いに対する反応が分からない。
一体、どんな表情をしているんだろう。
「そいつ自身では出来なくても、他人の手では出来るかもしれないだろ。その証拠に、一時的にでも由羅が封印を解いた」
表情の見えない葉玖を見つめながら、無意識に頷いた。
そうだ、あたしは他人だ。
他人であるあたしが、この手で封印を解いた。
葉玖の話では、今の彼の封印が解けているのは“一時的”という事になる。
契約に縛られているんだとしても。
律の解釈は一理ある。
なら、確かめればいい。
一時的にでも封印を解けた“他人”のあたしになら、出来るはず。
彼が彼自身の封印を解く方法を知っているなら。
だから、答えが欲しい。
「葉玖、こっち向いて」
言われた通りに彼がゆっくりと振り向く。
その美しい顔は、複雑な感情を映し出していて。
その眼差しは……何故か、悲痛なものに感じられた。
二つの黄玉を見ていると、胸の奥がざわざわする。
今にも涙を流しそうな程、潤んでるから。
けれどそれに構わず、ぐっと奥歯を噛み締めてから──尋ねた。
「封印の解き方を知ってる?」
「──…はい」
「あなたの封印、あたしの手で解くことが出来る?」
ざわざわ、ざわざわ。
草木が擦れ合う音、胸の奥でざわめく気持ち。
その間、律の視線を感じてはいたけれど。
彼からの答えを待つ刹那、お互い一時も目を逸らさなかった。
「──…はい」
瞼を伏せ、ゆっくりと一つ息をつくと、蜂蜜色の瞳が脳裏にはっきりと浮かぶ。
甘く響く低い声が、じわりと耳奥に染み渡る。
彼と過ごしてきた思い出が──甦る。
そっか。今までの時間は……要らなかったんだ。
「──…帰ろう」
俯けていた顔を上げて静かに呟く。
見上げた先にあった美しい顔に、困惑の色が浮かんでいて。
あたしは首を傾いで、そっと微笑んでみせた。
もう……何もかも馬鹿らしく思えて。