貴方に愛を捧げましょう

依存する慕情



家へ帰る道すがら、ずっと意識の外にあった手荷物をふと思い出した。

そう、コンビニで買った箱詰めのアイス。

……すっかり忘れてた。


家に着いて早々、冷蔵庫の元へと直行し、コンビニのロゴが入った袋から箱を出し、中を見てみた。

あたしの好きな、シンプルなバニラアイス。

十二本入りで個々に袋詰めされていたそれは、案の定、袋の中で木の棒から溶け崩れていた。

夜とはいえ夏のこの気温じゃ、アイスも溶ける。


箱からアイスを全部出してみると、真ん中に位置していた一本だけ、辛うじて溶けていないのがあった。

冷凍室を開けて溶け崩れた残りのアイスを入れると、冷蔵庫を背にして、その場に座り込んだ。

袋開けて木の棒を摘まみ、中からアイスを取り出してみると。


……やっぱり、ちょっとだけ溶けてる。

なんとか長方形の姿を保ってるといった様子。

でも、食べられればいいや。

そう思って先端を一口かじった。


「つめた……」


思わずそう呟きながら、ふと視線を上げてみると。

律と別れてからずっと黙り込んでいる葉玖と目が合った。

陰りのある、鬱とした蜂蜜色の瞳。

真っ白な着物を纏ってすらりと佇む姿は、言葉では表せないほど儚げで。

その姿を、無性に壊してみたくなった。


「──…ねぇ」


立ち上がって彼の元へ行き、前に立って長身の体躯を見上げた。

この数ヶ月で、彼の微細な表情がよく読めるようになったと思う。

今は……あたしの問い掛けに不思議がっているみたい。


「食べる?」


食べかけのアイスを彼の前に差し出し、首を傾げて尋ねた。

……実を言うと、これまで彼が何かを食べているのを見た事が無い。

あたしが食事するついでに何かしらあげた事はあるから、あくまでも自主的には、だけど。

まぁ、人間じゃないから食べなくても生きていけるのかも。


「溶けるから、早く」


困惑の色を浮かべて、あたしの問い掛けに答えないからそう言うと。

表情はそのままに、美しい相貌をこちらに近付けて。

薄い唇を開き…──しゃく、と小さな氷を噛む音が微かに響いた。

表面の溶けたアイスが、彼の唇の端から零れる。

それは唇を越して鋭角的な顎の中程まで、つぅ、と垂れた。


そんな些細な様さえ怖いくらい絵になって……美しい。


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