貴方に愛を捧げましょう
手を伸ばし、零れ流れ落ちていくアイスを指先で掬い取る。
それを彼の瞳から視線を逸らさずに口に含んで舐め取ると。
二つの黄玉が驚いたように見開かれる。
「由羅、様…?」
あたしが彼の考えを読めないように、彼もまた、あたしの行動や考えを予測出来ないのだろう。
それはあたしも同じだ。
彼の考えている事は解らない。
だから、今から確かめよう。
今まで彼の言葉が──真実か、否か。
「……行こ」
戸惑う様子の彼を横目に、縁側に続く扉へと向かった。
残りのアイスを食べながら縁側へ出ると、電気も付いてない月明かりだけの中。
アイスを食べ終えてから、ゆっくりと振り返った。
「あたしが何を聞きたいのか、分かってるわよね」
「封印を解く方法、でしょうか……」
「違う。……まぁ、それもあるけど」
あたしが否定した事によって、彼の顔に再び困惑の色が浮かんだ。
アイスを食べた後に残った平たい木の棒を気紛れに指先で弄びながら、蜂蜜色の瞳を真っ直ぐに見つめ返す。
そうした方が、よりあたしの不満が伝わるだろうと思って。
「どうして教えてくれなかったの、封印を解く方法を知ってたくせに」
「申し訳ございません……。ですが主から尋ねられない限り、お教えする事は禁じられております。それと今まで、どの主にも封印を解く方法を尋ねられる事が無かったもので……」
「──…そう」
また、制約ね……。
新しい事実に更に不満が募り、思わず歯をぐっと噛みしめた。
けれど、募ったのは不満だけではくて。
彼は──契約に、主に、様々な制限に、がんがら締めになっている。
そう考えると彼がとても哀れに思えた。
今までにも感じた事はあったけれど、ここにきて更にその思いが募ってくる。
「じゃあ、あたしが初めてってわけね」
これ以上彼を責めるのはやめにして、不満げな表情を引っ込めた。
──…そうよね。
少し考えれば、教えてくれなかった理由に気付けたはずなのに。
今からが大事なんだから、冷静に努めないと……。
そう考えて、遊ばせていた指先を引き締め、強く拳を握った。
「ええ……貴女が初めてです」
不意に声がして顔を上げると、彼は微かに笑みを讃えて遠くを眺めている。
その瞳は底光りし、暗闇でもはっきりと澄んで見えた。