貴方に愛を捧げましょう
「私は充分に承知しております。私達のような者に善悪どちらとも存在するように、人間にも同じ事を言えるというのを……」
「……何が言いたいの」
眉を潜めて、静かに問いかけた。
蜂蜜色の瞳があたしに向けられ、すらりとした手がこちらに差し出されて。
「勿論、人間にも善い方が居られる事を解っております。貴女のようにどこか弱く儚げで……けれど、純粋で心優しい事を」
頬から顎先にかけて、羽根が滑るように彼の指先がそっと撫でていく。
どうして、こんな時にそんな事を言うの……。
その思いに気を取られ、彼の手を払い除ける事を考える間もなく、それが離れていくのをただ見届けた。
肌に温かな余韻が甘く残る。
……あたしが余計な事を尋ねるから、彼も余計な事を話すんだ。
だったら必要な事だけを尋ねよう。
そうすれば、彼の口から余計な事を聞かなくて済む……。
「あとはもう、あたしが尋ねた事に答えるだけにして。それ以外は…──」
突然、彼が跪いて片手を胸に当てた。
まるで何かに誓いを立てるような姿であたしを見上げて。
真剣な表情で言葉を紡ぐ。
「もしも貴女が、私を解放したとしても……私は、貴女の傍を離れたくはありません」
「──っ!?」
また、だ。
またそんなこと言って……一体、どういうつもりなの。
──…彼はきっと、予感がしたのかもしれない。
お互いの考えを読む事は出来なくても、お互いに勘は鋭いから。
でも、あたしの考えを見透かしたかのように、唐突にそんな事を言うから。
思わず息をのんだあと、一呼吸置いてから語気を強くして告げた。
彼の言葉は聞かなかった事にして。
「それ以上、勝手に話さないで」
あたしの心を揺るがさないで。
あなたの言葉は、あたしにとっての毒になる。
あたしを内側からじわりじわりと侵して、おかしくしてしまうから。
現に、今のあたしは……彼に対して様々な感情を抱いている。
以前のあたしでは有り得なかった事が、起きている。それが証拠。
すると彼の薄い唇が開きかけ…──迷った末に、閉じられた。
そう、それでいいの。
余計な事は言わないで、大人しくして。
「まず、あなたの封印を解く方法を教えて」