貴方に愛を捧げましょう
正しく順序を踏んで、目的を達成させる。
彼が居なかった以前の生活を、元の日常を戻すために……。
「初めて貴女とお逢いした際に私が閉じ込められていた檻の中に、私の刀があります」
「あなたの、刀?」
そんな物あったっけ……。
眉を潜めて、彼を閉じ込めていた鉄の檻を思い出そうとした。
──…だけど、ぼんやりとしか思い出せない。
なにしろ彼の封印を一時的に解いてしまった、あの日以来、例のからくり部屋には一度も足を踏み入れていないんだから。
「はい、私の妖刀(ようとう)です」
「……で、それをどうするの」
彼の言う“ようとう”という物は、よく分からないけれど。
あまり気にせずに続きを促した。
そこで彼がすっと立ち上がり、闇夜に溶け込むように静かに告げる。
「刀で呪符を……私を封印している御札を、斬るのです」
「──…えっ?」
あまりにも呆気ない答えに、思わず茫然とした。
なんなの……それ。それだけなの?
そんなに簡単なら自分で……──
そう、思いはしたけれど、直ぐに考えを改めた。
聞いた限りでは簡単な事のはずなのに、彼に出来ないのには、きっと何か理由があるはずだ。
「それを自分でしないのには、何か訳があるのよね」
「私と同じく、刀も封印を施されております。私の様な類いの者には、一切、触れられないように……。故に、私は触れる事が出来ないのです」
「じゃあ、あたしはその刀に触れるのね」
「邪念が無ければ、刀は鞘から引き抜けるはずです」
邪念…?
その言葉に、思わず訝しげな顔をしてみせた。
……すると。
「貴女の心は純粋そのもの。強い意志を持つ由羅様であれば、刀に触れる事が叶うでしょう」
「……っ」
「私を真っ直ぐに見る美しい瞳が、迷いの無い率直な言葉が──いいえ、貴女の全てが。どうしようもなく、私を惹き付けるのです」
今度は目を丸くする。
そんなあたしを見る彼は…──何故か、柔らかい笑みを浮かべていて。
その眼差しは、まるで大切なものに向けられているかのように、温かくて優しくて……。
「ですから…──」
それが無性に気に触って、気付いた時には片手を振り上げていて。
静閑な夜に、パシンッ、と乾いた音が鳴り響いた。