貴方に愛を捧げましょう


「だから何だって言うの……っ」


話をやめるよう命令すればいいだけなのに、冷静さを欠いたあたしの内は、自尊心が大半を占めていて。

そのせいで判断力が鈍ってしまって。

彼との会話を、あたしから打ち切る事が出来なくなっていた。


そこで突如手を取られ、引っ張られると思い身構えたけれど。

そうはならず、あたしの手を握り締めたまま、彼は再び跪いた。

真摯な眼差しであたしを見上げ──告げる。


「愛しています。由羅様」


はっと息をのみ、身体も思考も停止する。

それとは対称的に、鼓動は乱れ、血がたぎる。

あたしを見上げる蜂蜜色の瞳から……目を逸らせない。


「なに、言って…──」

「貴女に愛を捧げると誓いました。──…私の愛を、どうか受け取っては頂けませんか」


どういう意味…? 何を、言っているの?

分からない、解らない。

ううん……違う。

理解、したくない。


片方の手はあたしの手を握ったまま、おもむろに立ち上がった彼は。

あたしの頬に手を伸ばし、まるで壊れ物に触れるかのように、そっと撫でた。

頬から顎先にかけて、唇の端から端へ、指先を滑らせて。

ふわりと微笑み、言葉を紡ぐ。


「心から、貴女を愛しています。だから…──」

「違う……違う…っ!」


空いた手で彼の胸を突き飛ばし、彼の言葉を遮ったあたしは。

違う、と。

譫言(うわごと)のように何度何度も呟いた。


「違う…? 一体、何が……」


戸惑う声が、耳奥にじわりと甘く響く。

けれど突き飛ばしたおかげで彼との距離が離れ、ほんの少し冷静さが戻ってくる。

呼吸をするのが苦しくて胸を押さえながら、彼を睨んだ。

こんなはずじゃなかったのに、そう、何度も思いながら。


「それはっ、あたしが言ったからよ……!」


また息苦しくなって、一息に言葉が続けられなかった。

それが無性に悔しくて、目の奥が熱くなった。


だけど絶対に泣きたくない。

涙を流すなんてプライドが許さない。それがどんな理由であろうと。


「“愛が欲しい”って、あたしが言ったから…っ」


そう……それが原因。

あの日の夜、あたしが口にした例の願いがそもそもの根源で。

だから彼と、可笑しくも歪な関係を築く事になったんだ。

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