貴方に愛を捧げましょう


改めてこれまでの事を思い出し、何もかもが結局は自分のせいだというのが、今になって身に染みてくる。

それが無性に腹立たしくて、その怒りを自分自身に対してどうしようもなくぶつけたくなった。


「そうですね……」


その柔らかい声音に、一瞬気が逸れた。

色々な感情が渦を巻いて、動転していたのかもしれない。

彼の言葉に耳を傾けるべきではないのに、伏せていた目線を上げてしまった。


「愛が欲しい、と貴女は仰いました」


闇夜に煌めく二つの黄玉が、あたしを捕らえて放さない。

いつまで経っても見馴れない彼の姿は、幻想的で儚げで。

まるで、あたしを惑わそうとしているかのよう。


「ですが、それは単なる“きっかけ”に過ぎません」


きっかけ……ね。

そんな言葉ですら、あたしを眩惑させようとしているんだ。

妖艶で美しい彼の姿のように。


「貴女を愛そうと決めたのは、私自身の意思です」

「そうよ……。ほんの僅かな自由と、あたしの気紛れな願望を、天秤に掛けてね」


あたしは視線を落としてそう呟いた。

彼がどんなに抜け穴を見つけても、何を言っても、事実は変わらない。


「それについても、否定は致しません」


……ほら、ね。


「──…ですが」


不意に、ふわりと風が吹いた。

心地よくも不自然な、花のように甘く芳しい香りを乗せて。

気付いた時には、儚げな白の着物が。見上げれば美しい相貌が、目の前に。


「貴女に惹かれるこの心は本物です」


そこで彼が強引にあたしの手を取り、自身の胸に押し当てた。

反射的に身を引こうとしたけど、その真摯な眼差しは鋭く、表情は今までにないほど険しくて。

心が、微かに揺れ動く。


「由羅様をお守りしたいのです。この身と心を捧げても足りない程に…っ、狂おしいくらいに……!」

「──…っ」


はっと、息をのんだ。

何も言い返せない。

ううん……何を、どう言えばいい?

今のあたしがどんなに考えた所で、お互いが納得出来る結論は出てこない。

彼から目を逸らして言えたのは、自分が納得出来る答え、ただそれだけ。


「あたしに、そこまでの価値なんて無い」


あなたの想いは魅力的で、何より強く美しい。

だからこそ……あたしという存在価値とは、釣り合わない。

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