貴方に愛を捧げましょう


バチバチッ、という数珠から放たれる戒めによる音。

それに続く、苦痛に満ちた葉玖の呻き声。

数珠に締め付けられる大きな体躯に、荒く苦しげな息遣い。


これが……契約違反の代償なんだ。


目の前に広がる光景に、心臓が痛いくらい締め付けられる。

彼の姿が、余りにも痛々しくて。

──…ううん、違う。それだけじゃない。


彼が契約違反を犯したから。

あたしを愛していると言った彼が、あたしを嫌って欲しいという命令に、迷いも無く背いたから。


つまり、彼の言葉は……全て真実だったという事。

今まで紡がれた言葉も、表情も、涙も、全部。

葉玖は本当に、あたしを愛していたんだ。

契約に背いてまでも“あたしを嫌う”事が出来なかった程に。


その事実が心の奥深くまで突き刺さる。

そして同時に、強く思う。

そこまで想われる程の価値なんて、あたしには無い。

例え彼が否定しようと、その事実は変わらない。


彼は今、苦しんでいる。あたしのせいで。

そう、何もかも、あたしのせい。


「──…っ」


言葉が出ない。

逞しい四本の脚で立とうものなら、直ぐ様、数珠の力で阻まれ。

数珠の戒めを解こうとすれば、その締め付けは一層強くなる。

そうして響く苦悶の呻き声。

苦痛に横たわる美しくも痛々しい身体。

目の前で、その光景が幾度も幾度も繰り返される。


あれではまるで──拷問だ。


契約違反を犯しただけで、どうしてあそこまでの罰を受けなければならないのだろう。

その理由は分からない。

──…だけど。

契約に、制約に、彼が常に敏感だった理由が……皮肉にも、今になってやっと分かった。


契約違反に対する代償の話を、今でもはっきり覚えてる。

彼は言っていた、十年間動けなくなると。

そしてあの数珠は、身体の自由を奪う戒めの鎖。

それはつまり、あの苦痛を彼は“十年間”罰として受け続けなければならないという事。


どうしてちゃんと話してくれなかったの?

そうすれば…──そう思いはしたけど、それに対する答えはすぐに出た。

こうなる事を話してもあたしが信じないと、彼には分かっていたのだろう。

だからもし教えてくれてたとしても、結果的には、同じ道を辿ってた。

そう、言い切れる。


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