貴方に愛を捧げましょう
柄から鞘にかけて、合間で幾度にも交差しながら、数珠が巻き付いている。
あれってすんなり外れてくれるのかな。
まぁ、あたしなら触れるって言ってたから、外すくらい……。
そう考えて迷う事なく檻の鉄柵の合間に手を差し入れ、刀へと真っ直ぐ腕を伸ばした。
けれど、その手を彼の鼻先が阻む。
……どうしてここで止めるのよ。
「何してるの」
「申し上げておきたい事があります」
けれどそんなあたしに構わず、葉玖は自身の刀を一瞥した後。
真剣な眼差しをこちらに向けた。
そこでふと、手に持っていたままの向日葵を思い出し、茎を摘まんでくるくると指先で弄ぶ。
花弁にそっと唇をくっつけ、再度彼に視線を向けた。
そこで彼の深く轟くような心地良い声が響く。
「刀には、私の妖力の一部が宿っています。それは貴女にとって、とても危険で……」
「だから? 何が言いたいの。封印を解くのをやめてほしいわけ?」
どうして今更そんな事を言うの。
ただの忠告? 失敗されたら困るから?
とにかく、間際になって止めるなんてやめてよ。
そう思って顔を僅かに歪ませた。
……けれど、彼の首がゆっくりと左右に振られる。
そう、違うってわけ。
「刀を持つ者の注意が散漫になると、妖力が本能に従って暴走します」
「刀が、暴走?」
「はい、私本体のように自制心を持たぬ故に。それを防ぐためにも……どうか、封印を解く事だけに集中して頂きたいのです」
「そんなこと言われなくても…──」
「ええ、それは重々承知しております。ですが、貴女の身の上を心から案じているのです。万が一、由羅様に傷一つでも付けようものなら、私は刀を折るつもりでいます」
「……っ」
あたしを見る瞳が、その思いを隠しもせずに語るから。
心を貫くような固い決意を、あたしに向けるから。
鼓動が速くなる、血がドクドクと脈打つ、急激に。
「それはただの刀ではありません、妖刀なのです。強い霊力を持たない人間が手にするには、余りにも危険な物です。本来ならば、貴女にそのような物に触れて欲しくありません……」
ひたすらあたしの心配だけをし、力無く項垂れる彼の様子に、心の奥が疼く。
それがどうしてなのか、今になっては分かるような気がする。