貴方に愛を捧げましょう
だから無性に何か言葉を掛けてあげたくて。
持っていた向日葵を、彼の足元に静かに置いた。
「大丈夫よ、心配しないで」
最後にもう一度だけ、名残惜しむように彼に触れてから、ようやく刀へ手を伸ばす。
鞘の中央を掴んで鉄柵の間から取り出し、そこで初めて刀を持ち上げてみた。
微かに、ガチャリと音が鳴る。
けれど刀にしっかりと巻き付いているせいか、数珠が擦れる音は一切しない。
それに思っていたより、すごく重い。
きっと両手で持たないと振り上げられない。
……でも、それでいい。
この刀の重みは、彼を解放するあたしに課せられた、責任の重みだ。
それを感じながら刀を振る事に、意味があるんだと思う。
──…さぁ、やってやろうじゃない。
部屋を回り込んで、檻の扉の前に立った。
すると予想していた通り、以前あたしが剥がした御札は、しっかりと檻に貼り付いて元の場所へと戻っている。
あたしは背筋を伸ばて、深呼吸を数回繰り返した。
そして御札に、封印を解く事に、しっかり意識を集中させて。
刀の鞘と柄をぐっと掴む。
そこで不意に、葉玖が大きく動いた。
案の定、彼の動きに反応して数珠の戒めが働き、バチバチッ、と痛々しい音が響く。
けれどそれに構わず、彼は姿勢を正し、すっと目を閉じた。
動けば辛い思いをするのが身に染みているはずなのに……。
「何してるの」
「貴女に掛かる負担を和らげるのです」
一切ブレのない柔らかな重低音。
一心にあたしへ向けられる無償の優しさ。
──…そして。
「我が名は、葉玖。汝と力を分かつ者」
妙に重なるように反響し合う彼の声に、一瞬にして変わった、ぞわりと肌を撫でる鋭い空気に。
思わず身体を固まらせた。
一体、何をするつもりなの。
「──…よって、我と力を同調させ、主である我の願いを聞き入れよ」
その刹那。
ブワッ、と彼の足元に炎が灯る。
律といる時に見た、あの魅惑的な青白い炎。
それは徐々に勢いを増し、めらめらと燃え上がる。
もちろん、彼が放つ力の象徴のような炎の発火と同時に、戒めの数珠も反応する。
けれどそれを必死に耐えているようで。
四肢で勢い良く立ち上がった彼は、九本の尾を檻に叩き付けた。
くぐもった苦悶の咆哮を響かせ、まるで痛みから気を紛らせるように。