貴方に愛を捧げましょう


「汝を手にする少女に、協力せよ…っ」

「……っ」


耐えられない、ただ見ているだけなんて。

姿の見えない契約者に痛め付けられる彼の姿を。


遠い過去に生きた、見知らぬ彼との契約者に。そして葉玖に。

止めて、もう何もしないで。

無意識に檻の方へ踏み出しそうになったけど。


「由羅様、鞘から刀を引き抜いて…っ」


彼が先手を打ったことで、迷う事なくその言葉に従った。

この状況を一瞬でも早く終わらせるために。


……葉玖のために。


刀を引き抜く為に、柄を掴む手に力を込めると──驚いた事に。

しっかりと刀を戒めていた数珠が、まるで嘘のように鞘を伝って滑り落ちていく。

終いには、重い音を立てながら床に重なりあって落下した。

彼はあたしが触れても問題無いって言ってた。

ということは、あたしに対する効力は無いって事?

だからこうなったのね……。


漆黒の数珠を一瞥してから、もう一度、目的の為に集中し直して。

柄を持つ手にぐっと力を込める。

そして…──ゆっくりと、刀を鞘から引き抜いていった。


「っ……!?」


声に出ない程の衝撃が、再びあたしを驚愕させる。

鞘から覗いた刀が、葉玖と同様、青白い炎に包まれていて。

それを目にした瞬間、ぶわっと全身が戦慄く。

同時に──刀を手放そうとした。

何も考えず、本能のままに。

けれど柄を掴む掌が、不思議な力に引かれて吸い付くように離れない。


額を冷や汗が一筋伝う。

手が冷たい、震える、意志が揺らぐ。

脳が、全身が、ぐらぐらする程に大きく鳴らすのは──警戒の鐘。


“霊力を持たない人間が手にするには、余りにも危険な物です”


彼が言っていたのは、こういう事だったんだ……!

だけど後戻りなど絶対に出来ない。したくない、させない。

鞘から刀を抜く手が止まらない。

刀の力で強制的に動かされているのが伝わる。

だって……腕から先が、言う事を訊かない。


「由羅様…っ」


心配そうにあたしを呼ぶ彼の声に重なって、完全に刀が抜けた鞘が、カランと音を立てて床に落ちた。

刀が重くて片手で支えきれず、ふらついてしまう。


「さぁ、構えて…!!」


再び心地良く響いたその声に反射的に従い、刀を両手で持った──次の瞬間。

刀が纏う炎が、勢いを増してゴオッと燃え上がる。


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